今アメリカの食品業界ではPlant-Based foods〜植物由来食品(またはAlternative foods〜代替食品市場)が大きな注目を浴びており、ブームとなっています。植物由来食品とは、オート麦、米、アーモンド、大豆などを使ったチーズ、ヨーグルト、アイスクリームなどの代替乳製品や、大豆、えんどう豆、そら豆などを使った代替肉製品のことです。
以前からベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(絶対菜食主義者)を対象にした代替食品は存在していましたが、民間世論調査大手のギャロップ(Gallup)社のデータでは、ベジタリアンとビーガンの人口割合はわずか8%程度ということで、これまでは市場規模がそこまで大きくはありませんでした。しかし、アメリカの植物性食品協会(PBFA – Plant Based Foods Association)と代替食品の普及を推奨するNPO組織であるグッド・フード・インスティテュート(GFI - The Good Food Institute)による最新の発表によると、アメリカにおける植物由来食品のシェアが急速に伸びているということです。
2019年4月の統計によると、それまでの1年間に売り上げベースで11%の伸びを示し、その市場価値は約45億ドルに達しました。一般食品市場がわずか2%の伸びだったのに対して5倍以上のスピードで伸びていることが分かります。ちなみに2017年4月からの2年間で見た場合には37%の伸びとなることが分かりました。
以下の表は2018年4月から2019年4月までの1年間の主要カテゴリー別売上高と、成長率です。
◎主要植物由来食品カテゴリー別数値
カテゴリー | 売り上げ (億ドル) | 成長率 |
ミルク | 19.00 | 6% |
肉類 | 8.01 | 10% |
アイスクリーム | 3.04 | 26% |
ヨーグルト | 2.30 | 39% |
クリーマー(コーヒー用などの) | 2.26 | 40% |
バター | 1.89 | 5% |
チーズ | 1.60 | 19% |
調味料、ドレッシング、マヨネーズ | 0.70 | 7% |
スプレッド、サワークリーム、ソース | 0.21 | 52% |
卵 | 0.06 | 38% |
※PBFAデータによる
ミルクを筆頭とした乳製品と肉類がこの植物由来食品市場をけん引していることが分かりますが、この急速な成長の背景には次のような社会的要因があるとGFIは述べてます。
① 人類の2/3は程度の差こそあれ、乳糖不耐症(牛乳を飲むとお腹を壊す等)である
② 乳製品や肉類を提供する家畜類により排出される温暖化ガスによる環境汚染(車などの交通機関による二酸化炭素に比べて約4割多いと言われている)
③ 動物愛護問題(食欲を満たすために殺処分される動物の保護)
④ 動物性食品の摂取により引き起こされる肥満、高血圧、糖尿病や癌などの健康問題
そして何よりも、スタートアップ企業や既存の食品製造会社等が植物由来食品市場に参入するにあたり、トライ&エラーを繰り返し、食品にとって最も重要である‘味’が本来の動物性食品と区別がつかないレベルまで進化しました。こうした‘味’の進化により、今までのユーザーであったベジタリアンやビーガンだけでなく、上記の①〜④に関心を持つ一般消費者にも広く受け入れられるようになったことがこの成長の大きな要因だと思われます。
現在のアメリカにおける植物由来食品の市場では、代替乳製品が大きなシェアを占めていますが、イギリス・ロンドンを拠点とする市場調査会社のリポートバイヤー(ReportBuyer)社によると、代替肉類の市場は今後も2桁の伸びが予想されているということで、アメリカにおける‘代替肉’の市場は2024年には約30億ドルまで伸びるだろうと予測しています。
そしてこの調査結果を裏付けるように、アメリカの‘代替肉(Plant-based meat)’の市場に多くの企業が参入しています。主な参入企業と取り組みの概要をご紹介します。
◎代替肉(Plant-based meat)市場参入企業
企業名 | 取り組み概要 |
ビヨンド・ミート(Beyond Meat) | カリフォルニア生まれのスタートアップで2009年に創業。ディカプリオやビル・ゲイツ等により支援されており、豆類を原料としたバーガー用パテ、ソーセージ、挽肉やクランブルは評価が高く、53,000店舗を超える小売店やレストランで販売あるいは利用されている。 代表的販売企業はアマゾン、ホールフーズ、クローガーおよびアルバートソンズ等。 2019年5月にナスダック市場に上場した。 |
インポッシブル・フーズ(Impossible Foods) | スタンフォード大学の教授がシリコンバレーで2011年に起業したベンチャー企業で、「血の滴るようなバーガー肉」と形容されるリアルな代替肉を主に大豆プロテインから生成している。 |
ネスレ(Nestle SA) | スイスを本拠とする世界最大規模の食品・飲料会社。 えんどう豆を原料としたベジバーガーのAwesome Burgerを2019年9月から10月に同社の植物由来食品ブランドのSweet Earthのブランド名で販売を開始する予定。 Awesome Burgerはすでにドイツのマクドナルドで販売されている。 |
タイソンフーズ(Tyson Foods Inc) | アーカンソー州拠点のアメリカ食肉の大手で、2019年6月からRaised & Rootedというブランド名にて、えんどう豆をはじめとする豆類と従来の肉類をかけ合わせた動物性たんぱく質の少ない独自のナゲットや、豆類と鶏肉をかけ合わせたミートボールとソーセージの販売を開始した。 |
メイプル・リーフ・フーズ(Maple Leaf Foods Inc) | カナダの食品大手で、子会社のGreenleaf FoodsからLightlifeのブランド名の植物由来バーガーとField Roastのブランド名の植物由来のソーセージ、バーガー、デリ、ミートローフおよびロースト肉などをホールフーズ、アルバートソンズ、ウェグマンズ等で販売している。 |
パーデュー・フーズ(Perdue Foods) | メリーランド州拠点の食肉処理大手で、カリフラワーやひよこ豆と鶏肉をかけ合わせた冷凍チキンナゲットの販売を9月以降に開始すると発表している。 |
スミスフィールド・フーズ(Smithfield Foods Inc) | バージニア州の食肉処理大手で中国の万洲が2018年に買収した。 大豆を原料としたバーガー、ミートボール、ソーセージ、挽肉などの商品ラインを発表しており、9月中旬以降にクローガー、スプラウツ・ファーマーズ・マーケット、ターゲットなどで販売を開始する予定。 |
ミートレス・ファーム(The Meatless Farm Co) | 2016年に英国リーズで起業された植物由来肉に特化した企業で、すでに英国内ではセインズベリー、コープ、モリソンズ等で販売している。 えんどう豆、米、大豆を原料としたバーガーとひき肉をホールフーズの店舗限定で販売を開始しており、2020年にはソーセージも販売開始予定である。 |
このように今後も右肩上がりの需要が見込まれる植物由来食品ですが、上記のリストにもいくつかの小売り企業名が登場している通り、多くの小売り企業が植物由来食品の取り扱いに積極的に乗り出しています。ショッパーマーケティング大手のインマーケット(inMarket)社が、今年の3月〜5月にかけて「顧客が植物性由来の食品をどの小売り企業で購入しているか」について調査をした結果を発表しているのでご紹介します。
順位 | 企業名 |
1 | |
2 | |
3 | |
4 | |
5 | ハリス・ティーター(Harris Teeter) |
6 | |
7 | ウィン・ディクシー(Winn Dixie) |
8 | |
9 | ストップ&ショップ(Stop & Shop) |
10 | ラルフス(Ralphs) |
※inMarket社データ
インマーケット社は1年前にも同じ調査を行っており、その時の上位5社は次のような顔ぶれでした。
1位 ボンズ(Vons)
3位 スプラウツ・ファーマーズマーケット(Sprouts Farmers Market)
5位 ホールフーズ・マーケット(Wholefoods Market)
前回5位のホールフーズが今回トップになり、前回ランク外のトレーダー・ジョーズが2位になっています。これは、もともとオーガニック等のスペシャルティ・フードの取り扱いに定評のある、いわゆる‘専門企業’が本格的に植物由来食品に取り組み始めた結果だとしています。
一昨年アメリカに進出したリドル(Lidl)はすでに同社プライベートブランドの植物由来のバーガーをNext Level Meatというブランド名にて本国ドイツの約3,200店舗で8月から販売開始しており、アメリカの店舗での展開準備を着々と進めているというニュースもあります。
今後、ますます市場の拡大が期待される植物由来食品。この新たな食材のトレンドに引き続き注目して行きたいと思います。
(2019.09.02配信)
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