1.米国小売業で主流となっているオムニチャネルに関する取り組み

(1)ストア・ピックアップ

ネット注文後、ピックアップ可能を知らせるメールが届き、添付されたバーコードを店舗やピックアップポイントでかざすと商品を受け取ることができる仕組み。ピックアップまでの時間は3時間〜数日と、各社にばらつきはあるものの、現在ではネット注文の3〜5割近くがこのサービスを利用しているとの調査もあります。「Click&Collect」とも言われています。
【取り組み企業例】
ウォルマート、ベストバイ、シアーズ、ウォルグリーン、GAPなど

(2)シップ・フロム・ストア

オンラインのオーダーを店舗がフルフィルメント及び出荷するシステム。
【取り組み企業例】
ノードストローム(2010年〜)、トイザラス(2011年〜760店舗で開始)、GAP、ウォルマート(2013年〜35店舗でテスト展開)、メイシーズ(2012年〜292店舗で開始)、ベストバイ(2013年末現在、50店舗でテスト展開)など

(3)プライス・マッチ

対象オンラインストアで、自社より安い価格を見つけた場合、「ロープライス・ギャランティー」マークが付いている商品は、自社で同じ価格で購入できる制度。
【取り組み企業例】
ベストバイ(アマゾン、ウォルマートなどオンライン19社が対象)、ステープルズ、トイザラス(オンライン11社が対象)、ウォルマートなど

(4)SNSの活用

米国で主流となっているSNSの1つが、画像に特化したピンボード風の写真共有サイト「ピンタレスト」です。ユーザーはイベント、興味のあること、趣味など、テーマ別の画像コレクションを作成し、管理することが出来ます。また、Webサイトやピンタレスト上の気に入った写真を自分のボードに貼りつける(=ピン)ことも可能。アメリカでは、5人に1人が利用すると言われ、Webサイトへの誘導も、ツイッターをおさえ、FBに次ぐ2位となっています。また、オンラインショップのカタログとして活用している企業もあり、オンラインショッピングをすることも可能です。
【取り組み企業例】
ノードストローム、Jクルー、ホームデポなど

2.小売各社の注目の動向

(1)ウォルマート

【小型店「Walmart Express」の出店強化】
こまめ買いへの対応とオンライン注文の店舗受け取り先になり得る小型店の出店を強化。また、後手に回っていたネットとの価格競争対策として、ネット通販が難しく、浸透率が1%という食品を小回りの利く小型店で提供する考えです。現在、346店を展開する「Neighborhood Market」と20店を展開する「Walmart Express」の2015年1月までの出店計画を、当初の120〜150店から最大300店(「Neighborhood Market」約200店、「Walmart Express」約100店)へと倍増。さらに、現在1店のコンビニ「Walmart to Go」を段階的に拡大、ドライブスルーの受け取り専門店舗「ドライブ」(顧客はオンライン上で買い物と決済を行い、ピックアップしたい時間を指定。来店すると、車から降りることなく、商品を受け取ることが可能。)の実験店のオープンを控えています。取り扱いアイテムは、ネイバーフッドマーケットの約1万アイテム、生鮮品やベーカリー、ドライフルーツなど大量販売商品が中心となる予定です。

 

【競合店との差額をキャッシュバック「セービング・キャッチャー」】
「セービング・キャッチャー」は、ウォルマートでの購入価格が競合店(アルディやターゲット、ハリス・ティーター、ウォルグリーン、HEBなど)の価格より上回っていた場合、差額分を自動的にキャッシュバックするアプリ。
ユーザーは、ウォルマートで買い物したレシート番号をアプリに登録するだけで、その差額を72時間以内にeギフトカードとして受け取ることが出来ます。2014年3月からジョージア州アトランタなど7カ所で展開されていましたが、同年6月に全米展開とすることを発表。全米展開に伴い、その対象商品は青果物、家電品、雑貨など8万品目となる計画です。また、同社は近い将来、セービング・キャッチャーとeレシートを統合することで、アプリへのレシート入力の手間を省き、買い物をするだけで、競合店との差額を自動的に返金出来るようにする、としています。これで消費者は、価格比較をして店を選ぶ手間をかけず、ウォルマートへ行って最安値で買い物が出来る、という囲い込み施策です。

(2)クローガー

【オムニチャネル戦略に拍車!健康食品のEコマース企業を買収】
2013年に買収した「ハリス・ティーター」を通じて、オンラインで食品を注文・店舗ピックアップが可能な「クリック・アンド・コレクト」を提供。また、傘下のキング・スーパーズでは、デンバー地域でオンライン注文食品の配達も実験していますが、思う様な結果が出ていないことから、クローガーではグローサリーのオンライン販売は生鮮以外の食品に限定する計画であることを表明しました。

2014年7月には美容・健康食品のオンラインストア「ビタコスト」と合併合意に達したことを発表。1994年創業の「ビタコスト」は、サプリメント・スポーツドリンク・食品・美容商品、ペット用品など45,000品目を取り扱い、1年間に1回以上購入する顧客数は直近で230万人。ノースカロライナ州とネバダ州にフルフィルメントセンターを持ち、国内50州と海外にも商品発送を行っていました。2013年度の売上高は、3.83億ドルと前年比16%増でしたが、フルフィルメントセンターなどの設備費やマーケティング費用などで4年連続の営業赤字、2013年度も1,370万ドルの損失を計上しています。
一方、クローガーは既存店を40四半期以上にわたってプラス成長させている優良企業で、非食品の販売比率が高いことでも知られています。業界平均3%程度と言われる調剤の売上高比率は8%、その売上高は78億ドルにも達し、調剤の売上高ランクは6位に入るほどです。サプリメントの売り上げも多く、オーガニックPB商品の売り上げも年内には10億ドルに達する見込みで、急成長しています。今回の「ビタコスト」の買収により、単にネットでサプリメントやPBを販売するだけではなく、レシピやカスタマーレビュー、定期購入サービスなどコンテンツが豊富な企業としても知られている「ビタコスト」のECノウハウを食品のネット販売にも活用していくことを発表しています。

(3)ホールフーズ

【iPad型会計システムの導入】
2014年2月、スマートフォンやタブレット決済のSquare社との提携を発表。店内のサンドイッチやコーヒースタンド、ピザカウンター、ビール・ワインバーなどでPOSソフトウェアを搭載したiPadレジスターのSquare Standを導入することで、レジを通さずその場での支払が可能になります。まずは7店舗で導入、ランチや軽食の2〜3品を購入のためだけにレジに並ぶ必要をなくし、より買いやすい店を目指します。スマートフォンでスクエアのアプリを利用する顧客は、クレジットカードをカードリーダーに通すことなくスマートフォンで支払いを完了することが出来ます。店内に様々なタイプのレジを設置することで、レジの精算速度を速め、新規顧客の獲得を後押しします。

(4)ホームデポ

【ダイレクト・フルフィルメントセンターを開設】
2013度の国内の既存店・売上高前年比は過去14年間で最大の7.5%となった同社ですが、オンライン販売が年率で50%の伸長、その売上高は全体の3.5%にあたる27.6億ドルと言われています。オンライン注文のうち、3分の1以上がストア・ピックアップ、スマートフォンやタブレットからの注文は35%にものぼります。一方で、バックオフィス業務を大幅に削減することで、スタッフの実働の約60%を接客時間に当てるなど、リアル店舗での接客時間を増やしています。リアル店舗ではしっかり接客を行い、店内での注文や受け渡し応対はシンプルに、こうした取り組みが顧客の支持を得ています。

また、同社は新規出店よりも、オンラインストアのインフラ整備に3億円以上を投資することを発表。そのうちの1つが、当日配送を可能にするフルフィルメントセンターの建設です。2014年2月に開設したアトランタ州に加えて、2年以内にカリフォルニア州とオハイオ州に新たに開設を予定。取扱品目は、10万品目以上にものぼり、注文から48時間以内に全米9割の居住地域に配達が可能となります。リアル店舗の3万5,000品目、同センターの10万品目の品揃えによって大半のニーズを満たし、それ以外はベンダーから直接送る仕組みにより、合計50万品目以上の幅広い品揃えを実現します。

 

【販売以外のコンテンツを充実させたウェブサイト】
同社のウェブサイトは、「オンライン販売」「DIYコンテンツ」「パーソナライズ」3つから構成されており、プロジェクトHow To、動画のプロジェクトガイド、商品購入ガイド、質問サイト、How toビデオなど、商品の使い方やシーンを具体的に見せるサイト設計となっています。注文以外でも利用者が楽しく便利に利用できるように充実させており、自然とウェブで注文する流れになっている点が特長です。PCやスマホによる注文はもちろんのこと、商品検索や相談も受け付けています。最近では、自分で施工が困難な顧客に、自社が資格審査したプロの施工業者を紹介するサービスを提供。オンラインの施工業者紹介サービス業である「rb社」と提携し、自宅の補修や庭の手入、デッキ作り、バスルーム・キッチンのリモデルを代行しています。

(5)メイシーズ

小売企業の中でいち早く「オムニチャネル宣言」し、マルチデバイス化した現代のユーザーに応えるためのオムニチャネル戦略を展開。

 

【在庫や顧客管理を一元化】
リアル店舗と自社ECサイトの在庫や顧客管理を一元化。全ての販売経路をマーケティング部門の傘下に置き、この部門が全てのプロモーションを仕切る組織体系に変更しました。無線のICタグを用いた在庫管理により、在庫の無駄を減らすと同時に、リアル店舗とネットの在庫の一元管理を行っています。

 

【シップ・フロム・ストア】
オンライン注文が入り、フルフィルメントセンターに在庫がない場合、システムが自動的に顧客の最寄り店舗の在庫を確認。店舗に在庫がある場合は、発注書が店舗のバックオフィスに送られ、店舗スタッフがこの発注書をもとに売場やストックルームから商品を集め、発送します。2012年より292店舗で開始され、2012年のWSJ紙の取材によると、NJガーデンステートプラザ内のメイシーズが受けた1日当たりのオンライン注文は100件以上、半日で5,000ドル以上を売り上げています。

(6)ウォルグリーン

【ロイヤリティプログラム「バランス・リワード」】
2012年にスタート、2014年2月に会員数は1億人に達し、アクティブ会員は8,000万人超と言われています。「健康になってポイントもたまる」をコンセプトに、ウォーキングをすると1マイルにつき10ポイントが付与されるプログラムや、予め目標値を設定し、ウォーキングやジョギングなどの運動をして、歩数や走行距離、体重等の記録をつけたり、目標をクリアするとポイントが加算される「ステップス・ウィズ・バランスワード」というプログラムなどと連動。ポイントと運動を連動することで、ユーザーの運動に対するモチベーションを保つだけではなく、貯めたポイントを利用するために来店を促進する仕組みになっています。

 

【自社アプリに診療予約機能とペーパーレス・クーポン機能を追加】
以前に注文した薬のバーコードをスマホで同社のアプリに読み込みと、スマホから注文が出来る機能など、利便性の高いアプリを提供している同社ですが、最近のアップデートで2つの新たな機能が追加となりました。
1つ目は、診療予約機能。店内で展開している、軽度症状の診察や検査を行う「ヘルスケア・クリニック」では通常、予約は必要ありませんが、オプションとして電話以外にもアプリからも診療予約を入れることが可能となりました。
2つ目は、ペーパーレス・クーポン。まずは、アプリに表示される商品クーポンをタップして保存します。同社のロイヤリティーカード「バランス・リワード」と連動しているため、店舗で該当商品の購入時にリワードカードをスキャン、もしくは電話番号を入力するだけで、自動的に該当商品が値引きされる仕組みになっています。

ペーパーレス・クーポンは、セーフウェイなどの大手スーパーマーケットでも取り入れられていますが、ペーパーレス・クーポンを開くと、すぐに商品画像表示される「分かりやすさ」と「使いやすさ」が評価され、ウェブ界のアカデミー賞とも呼ばれているウェビー賞のBest Integrated Mobile Experience(統合されたモバイル体験)部門で受賞しました。

 

このようなペーパーレス・クーポンは米国だけではなく、日本でも広がりつつあります。例えば、配信されたクーポンの中から、消費者が事前にスマートフォンで利用したいものを選択、レジで商品とクーポンを自動的にチェックして割引や特典を付与する仕組みで、消費者が小売店のクレジット機能付き会員カードなどに登録して使用します。消費者にとっては、レジでクーポンを出す手間がかからず、クーポンを出し忘れることもないため、クーポンを効率的に使用することが出来ます。企業側にとっても、消費者の購買履歴やクーポンの利用状況を把握・分析することで、それぞれの消費者に合ったクーポンを配信したり、より効果的な販促につなげたりすることが可能なため、導入する企業が増えています。

2014.07.29

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