2025年アメリカ小売市場は閉店ラッシュ~15,000店舗閉店見込か

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アメリカのシンクタンク大手コアサイト・リサーチ(Coresight Research)社の最新のレポートによると、アメリカ国内における2024年1年間の小売店舗新規出店数は5,970店舗だったのに対して、閉店数が7,325店舗ということで閉店した店舗数が新規出店数を1,355も上回ったということです。

新規出店数も過去最高値でしたが、同時に閉店数も2023年度の同期比と比べて約69%も増加しており、新型コロナウィルスのパンデミック以降最大規模の閉店数となりました。

【2024年】閉店数実績

閉店店舗数が多かった主な小売企業は以下の通りです。

企業名閉店店舗数
1ファミリー・ダラー(Family Dollar)677
2CVSヘルス(CVS Health)586
3ビッグ・ロッツ(Big Lots)580
4コンズ(Conn’s)553
5ルー21(rue21)543
6セブン・イレブン(7-Eleven)492
7ライト・エイド(Rite Aid)408
899センツ・オンリー・ストア(99 Cents Only Stores)371
9アメリカン・フライト(American Freight)353
10ウォルグリーンズ(Walgreens)259
※Coresight Research社調べ

景気の回復傾向は見られるものの、閉店数が伸びた最大の要因は急速に進んだインフレ環境下で、多くの消費者が商品の購入先を従来に比べ慎重に選別し始め、価格重視でオンラインでの購買行動が顕著になるなかで、サプライチェーンを適応させ、コストを削減するためのテクノロジーを導入できなかった小売企業が大きな影響を受けたと報告しています。

【2025年】閉店数見込み

さらに、同社は2025年1年間の新規出店数と閉店数についての予測も同時に発表しており、新規出店数はインフレの緩和により5,800店舗と安定した数値を予測している一方で、閉店数は過去最大の15,000店舗という数値を予測しています。

この閉店数は1年前の同時期に比べて334.3%増という衝撃的なもので、年が明けて直ぐの1月17日時点で確認されている主な小売企業5社と閉店数は次の通りです。

企業名閉店数
1パーティ・シティ(Party City)738
2ビッグ・ロッツ(Big Lots)601
3ウォルグリーンズ(Walgreens)333
4セブン・イレブン(7-Eleven)148
5メイシーズ(Macy’s)51
※Coresight Research社データ

この表のように、パーティ・シティ、ビッグ・ロッツ、ウォルグリーンズ等が既に具体的な閉店数を発表しており、同時に小売企業からの求人数も前年同期比で約30%減少しているということで、2025年は過去最大の閉店ラッシュになると予測しています。

パーティ・シティは過去2年間で2度の破産申請をしており、現在事業の精算を進めています。

ビッグ・ロッツも昨年9月に破産申請をしており、全米で展開していた約1,300店舗すべての閉店を発表していましたが、昨年12月に、約400店舗を不動産コンサルティング大手のゴードン・ブラザーズ・リテール・パートナーズ社に売却し、東海岸で400以上の小売店舗を運営しているバラエティ・ホールセラーズ社が店舗運営することで合意しています。

今回5番目に閉店数が多いメイシーズ(Macy’s)は、高級百貨店のブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)と高級化粧品店のブルーマーキュリー(Blue Mercury)も運営していますが、年内に最大66店舗の閉店を予定しており、そのうち51店舗は既に確定しているということです。

まとめ

アメリカの大手債権の格付け業務や企業の信用調査を行っているムーディーズ(Moody’s Corporation)によると、再就任したドナルド・トランプ大統領による関税拡大の影響で物価が高騰し、インフレも再び悪化し、消費者の財布にさらにダメージを与える可能性が高いと予測しており、小売店の更なる閉店ラッシュが加速する懸念もあります。

引き続き新規出店および閉店に関する情報にも注目して行きたいと思います。

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アメリカ小売市場のシュリンクフレーション

アメリカ小売市場のシュリンクフレーション

2020年3月11日に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(Covid-19)のパンデミック宣言をしてから丸4年が経過しました。 WHOのデータでは、2024年2月25日現在700万人以上がこの病気で死亡したということですが、この歴史に残る未曽有のパンデミックによって引き起こされたアメリカのグロサリー小売市場への影響については、2023年12月07日に配信したメールマガジン「パンデミックとグロサリー小売りの変遷」にまとめた通りです。 同メルマガでもご紹介しましたが、アメリカのインフレ率が2021年4月2.6%、7月5.4%、2022年7月に9.1%、2022年8月に1979年5月以来最大の11.4%、9月も11.2%と急上昇するなど、極めて高いインフレ率の影響を受けることで、それまでウォルマートに見向きもしなかった年収10万ドル以上の富裕層の75%がウォルマートで買い物をするという現象が起きました。 アメリカのインフレ率は2023年1年間の平均が3.2%で、2024年に入っても3%台前半と安定しておりますが、この数値は高インフレ率が叫ばれている現在の日本の数値と大差がありません。 世界的インフレ率高騰の最大の要因であるロシアによるウクライナ侵攻がいまだ継続中で、収束の見込みすら立っていない現状では今後しばらくモノの価格の高い状況は続いていくとみられています。  前述の通り富裕層が価格訴求の代表格であるウォルマートでの買い物にシフトするなど購買行動に変化が見られますが、それとは別にここ数年注目を浴びているのが商品の内容量やサイズを減らして価格を据え置く、あるいは値上げ率を最小限に抑えて企業努力をしているように見せる「シュリンクフレーション(Shrinkflation)」です。 Shrink(縮小)とInflation(インフレ)を合成した造語ですが、インフレ下において消費者に気づかれずに実質的な値上げを行う行為で、ステルス値上げとも言われています。 従来は、原材料の値上げなどにより仕入れ価格が上がることで、殆どの小売業者は商品の値段そのものを値上げする方策をとっておりましたが、約40年半ぶりのインフレ禍で値上げによる顧客離れが深刻化し、顧客に気づかれないように商品の容量を減らしたり、サイズを縮小することで商品価格を維持あるいは見た目はわずかな値上げにしようとするステルス値上げ、つまりシュリンクフレーションが頻繁に報告されるようになりました。 2022年にウォルマートの人気PB商品のグレート・バリュー(Great Value)のペーパータオルが、価格はそのままに168枚入りから120枚入りになったことが一部SNSユーザーの投稿で話題になりました。 また同じ時期に飲料メーカーのゲータレード(Gatorade)社が、人気スポーツドリンク商品のサースト・クエンチャー(Thirst Quencher)のボトルのデザインを、構造的に片手で持ちやすく改良したというメリット表示をしたうえで変更しました。 ボトルの高さはそれまでと同じながら内容量が32オンスから28オンスへと約14%も減量されており、こちらもSNS等でたたかれる結果となりました。 このように消費者によるシュリンクフレーションへの反発が高まる中で、バイデン大統領も「価格を据え置いたと見せかけてより少ない商品を販売するシュリンクフレーションは全くの‘ぼったくり’であると非難する声明を出し、シュリンクフレーションを抑制するための規制を施行する権限を連邦取引委員会に与える法案の可決を求めました。 世界的な調査会社で、主に消費者データを扱っているYouGov社の2023年の調査結果では、アメリカ人の4分の3以上の消費者が、蔓延するシュリンクフレーションに対して不信感あるいは不快感を持っていると回答したということです。 ニューヨークに拠点を持ち、主にアメリカのビジネスや技術ニュースを専門に扱っているウェブサイトであるビジネス・インサイダー(Business Insider)社がまとめた、実際にアメリカ国内でシュリンクフレーションに該当する代表的な商品カテゴリーと、シュリンクフレーションした率および実質値上げ率に関するデータは以下の通りです。 商品カテゴリー実質値上げ率価格値上げ(販売価格)シュリンクフレーション率家庭紙製品34.90%31.20%10.30%スナック26.40%23.90%9.80%キャンディ・ガム29.70%27.70%7.00%家庭用清掃用品24.50%22.70%7.30%コーヒー22.00%20.50%7.20%砂糖類44.50%43.00%3.30%アイスクリーム21.40%20.00%7.00%冷凍食品29.30%28.10%4.00%Business Insider社データ 表の見方ですが、家庭紙製品を例にすると、従来の紙製品に対して見た目の値上げ率(販売価格)は31.2%ですが、消費者に気づかれないように商品の内容量を減らすことで10.3%の付加的値上げを行うことにより、消費者に対する実質の値上げ率が34.9%になるということです。 世界的経済誌のフォーブス(Forbes)社によると、この一連のシュリンクフレーションの被害者は当然一般消費者だが、最大の加害者はダラー・ツリーやダラー・ゼネラル等のディスカウント・リテーラーだとレポートしています。 ダラー・ツリーは2021年に基本商品価格を1ドルから1.25ドルに引き上げ、2023年夏には5ドルの商品も導入しています。 フォーブスによると、値上げとシュリンクフレーションの組み合わせにより、ダラーショップの2023年の利益率は31.5%となっており、ウォルマートより7%、クローガーより10%も高い利益を得ているということです。 ディスカウント・リテーラーで買い物をする消費者は特に値上げに敏感なため、単純に商品の内容量を減らしたりサイズを小さくするという選択をしてしまうようです。 たとえば、Doveの石鹸6パック入りはダラー・ゼネラルで8ドルで売られていますが、内容量は1個3.17オンスです。 同じ銘柄の石鹸8パック入りはターゲットで10.99ドルで売られており、内容量は1個3.75オンスのため、見た目の価格はダラー・ゼネラルのほうが安いのですが、内容量を見るとターゲットのほうが1個につき5セントほど安く買える計算になります。 因みに、フランスの大手スーパーマーケットチェーンのカルフール(Carrefour)は、2023年9月からシュリンクフレーションを導入して店頭に並べている商品すべてにその情報を表示して販売する手法を取り入れており、消費者から賞賛を得ることに成功しています。 今後もモノの価格が上がり続けると予測されている中で、小売業者がどのように消費者に向き合っていくのか今後も注目していきたいと思います。 (2024.3.22配信/記事作成:イオンコンパス(株)海外仕入部)

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