アメリカ小売市場のシュリンクフレーション

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2020年3月11日に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(Covid-19)のパンデミック宣言をしてから丸4年が経過しました。

WHOのデータでは、2024年2月25日現在700万人以上がこの病気で死亡したということですが、この歴史に残る未曽有のパンデミックによって引き起こされたアメリカのグロサリー小売市場への影響については、2023年12月07日に配信したメールマガジン「パンデミックとグロサリー小売りの変遷」にまとめた通りです。

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パンデミックとグロサリー小売の変遷

パンデミックとグロサリー小売の変遷

2023年5月に足掛け3年にわたり続いた新型コロナウィルスによるパンデミックは、日本では感染法上の分類がこれまでの2類から5類に緩和され、本格的なウイズコロナの生活に入りました。 また、アメリカも2020年3月に宣言した「国家非常事態」を今年5月に解除しパンデミック前の日常にシフトしました。 この未曾有のパンデミックにより多くの産業が打撃を受けましたが、今回はアメリカの小売業、特にグロサリー小売について、パンデミックの前年(2019年)から現在までの変遷について簡単にまとめていきたいと思います。 パンデミックの前年の2019年、アメリカ経済は前年比2.3%成長し、小売業全体の売上も5.4兆ドルを記録し、2018年の5.2兆ドルから4.5%の成長を記録するなど堅調な伸びを示していました。 2020年初頭も楽観的な予測が発信されており、アメリカの資産運用企業大手アライアンス・バーンスタイン(Alliance Bernstein)のシニアエコノミストも「現在の経済は非常に安定しており、経済の基本的な軌道を変える必要性は見つからない」と述べておりました。 しかし、2020年3月に入り新型コロナウィルスが世界的規模の拡大を見せると、それまでになかった新たな日常が始まりました。  マスクの着用と手指消毒が感染予防になると報道されると「パニック買い」により商品が小売店舗の棚から消え、小売店舗内で周りの人間との距離を取る「ソーシャル・ディスタンス」という新しい言葉も生み出されました。 日本でもマスクや消毒液が小売店舗の棚から消え、2020年の年末まで入手することが困難な状況が続き、日本政府が日本国内すべての家庭に2枚ずつマスクを配布したことも記憶に新しいと思います。 さて、この2020年3月以降のパンデミック中にアメリカのグロサリー小売市場において 発生した大きな変化を以下の通りまとめてみました。 1グロサリー小売売上高が2020年3月からわずか4か月で800億ドル減少2アメリカ最大のキャッシュバックアプリのアイボッタ(Ibotta)のキャッシュバック需要が26%増加、グロサリーが33%の上昇3店舗での1回の買い物品数が12.5個から20個に増加⇒買いだめ習慣の始まり4オンラインショッピングが2020年夏の4.5%から秋には12%に急上昇、2021年9月に9%に落ち着いたものの、2027年には13.6%になるという予測が発表された*クローガーのCEO「わずか2週間で3年分のeコマースの成長が見られた」と発言52021年に入り店舗でのショッピング習慣が復活し、2021年第4四半期の客足は前年同期比で12%上昇(placer.aiデータ)62021年2月から2022年10月の期間にグロサリー価格が平均18%急騰(Ibottaデータ)⇒急速なインフレの始まり72022年第1四半期以降グロサリー小売企業の食料品宅配アプリのダウンロードが前年同期比で40%上昇8アメリカのインフレ率が2021年4月2.6%、7月5.4%、2022年7月に9.1%、8月に1979年5月以来最大の11.4%、9月も11.2%と急上昇⇒2023年9月時点で3.2% パンデミックの間、人との接触をできるだけ避けるためショッピング習慣のオンライン化が急速に進み、同時に高インフレ率が大きな社会問題となりました。 このインフレ下で、より価格が安く品質の良いプライベートブランドに対する消費者の関心が高まり、現在に続いています。 大手調査会社Circana(旧NPD Group)社によると、2023年度第1四半期(3月26日終了)の北米グロサリー小売市場におけるプライベートブランドの売上が、前年同期比で10.3%増と大幅にアップしたということです。 これによりグロサリー小売の北米市場における売り上げベースのシェアは19.1%(前年18.5%)となりました。(ユニットベースのシェアは20.8%:前年20.3%) 緩やかになったとはいえ長期化するインフレ環境が低価格なプライベートブランド商品の売り上げを押し上げたかたちとなりました。 グロサリー17部門のうち15部門でプライベートブランドの売上が伸びたということです。 また特定の小売企業へのロイヤルティの低下という現象も起きており、それまでウォルマートに見向きもしなかった年収10万ドル以上の富裕層の実に75%が、このインフレ下でウォルマートでの買い物をしたということです。 なお最新の情報では、ウォルマートのCEOダグ・マクミロン氏は、今後数か月以内にアメリカにおいてインフレからデフレに切り替わるだろうと予測しており、危機感を感じていると話しています。 パンデミックが一段落したとはいえ、現在アメリカに存在する約100万店舗の小売店のうち2028年までに5万店舗以上が消失すると言われています。 ベッド・バス&ビヨンドやライト・エイドといった大手小売企業が相次いで経営破綻するなど不透明感の続くアメリカ小売市場ですが、今後もウォッチして行きたいと思います。 (2023.12.7配信/記事作成:イオンコンパス(株)営業戦略部)

同メルマガでもご紹介しましたが、アメリカのインフレ率が2021年4月2.6%、7月5.4%、2022年7月に9.1%、2022年8月に1979年5月以来最大の11.4%、9月も11.2%と急上昇するなど、極めて高いインフレ率の影響を受けることで、それまでウォルマートに見向きもしなかった年収10万ドル以上の富裕層の75%がウォルマートで買い物をするという現象が起きました。

アメリカのインフレ率は2023年1年間の平均が3.2%で、2024年に入っても3%台前半と安定しておりますが、この数値は高インフレ率が叫ばれている現在の日本の数値と大差がありません。

世界的インフレ率高騰の最大の要因であるロシアによるウクライナ侵攻がいまだ継続中で、収束の見込みすら立っていない現状では今後しばらくモノの価格の高い状況は続いていくとみられています。

 前述の通り富裕層が価格訴求の代表格であるウォルマートでの買い物にシフトするなど購買行動に変化が見られますが、それとは別にここ数年注目を浴びているのが商品の内容量やサイズを減らして価格を据え置く、あるいは値上げ率を最小限に抑えて企業努力をしているように見せる「シュリンクフレーション(Shrinkflation)」です。

Shrink(縮小)とInflation(インフレ)を合成した造語ですが、インフレ下において消費者に気づかれずに実質的な値上げを行う行為で、ステルス値上げとも言われています。

従来は、原材料の値上げなどにより仕入れ価格が上がることで、殆どの小売業者は商品の値段そのものを値上げする方策をとっておりましたが、約40年半ぶりのインフレ禍で値上げによる顧客離れが深刻化し、顧客に気づかれないように商品の容量を減らしたり、サイズを縮小することで商品価格を維持あるいは見た目はわずかな値上げにしようとするステルス値上げ、つまりシュリンクフレーションが頻繁に報告されるようになりました。

2022年にウォルマートの人気PB商品のグレート・バリュー(Great Value)のペーパータオルが、価格はそのままに168枚入りから120枚入りになったことが一部SNSユーザーの投稿で話題になりました。

また同じ時期に飲料メーカーのゲータレード(Gatorade)社が、人気スポーツドリンク商品のサースト・クエンチャー(Thirst Quencher)のボトルのデザインを、構造的に片手で持ちやすく改良したというメリット表示をしたうえで変更しました。

ボトルの高さはそれまでと同じながら内容量が32オンスから28オンスへと約14%も減量されており、こちらもSNS等でたたかれる結果となりました。

このように消費者によるシュリンクフレーションへの反発が高まる中で、バイデン大統領も「価格を据え置いたと見せかけてより少ない商品を販売するシュリンクフレーションは全くの‘ぼったくり’であると非難する声明を出し、シュリンクフレーションを抑制するための規制を施行する権限を連邦取引委員会に与える法案の可決を求めました。

世界的な調査会社で、主に消費者データを扱っているYouGov社の2023年の調査結果では、アメリカ人の4分の3以上の消費者が、蔓延するシュリンクフレーションに対して不信感あるいは不快感を持っていると回答したということです。

ニューヨークに拠点を持ち、主にアメリカのビジネスや技術ニュースを専門に扱っているウェブサイトであるビジネス・インサイダー(Business Insider)社がまとめた、実際にアメリカ国内でシュリンクフレーションに該当する代表的な商品カテゴリーと、シュリンクフレーションした率および実質値上げ率に関するデータは以下の通りです。

商品カテゴリー実質値上げ率価格値上げ
(販売価格)
シュリンクフレーション率
家庭紙製品34.90%31.20%10.30%
スナック26.40%23.90%9.80%
キャンディ・ガム29.70%27.70%7.00%
家庭用清掃用品24.50%22.70%7.30%
コーヒー22.00%20.50%7.20%
砂糖類44.50%43.00%3.30%
アイスクリーム21.40%20.00%7.00%
冷凍食品29.30%28.10%4.00%
Business Insider社データ

表の見方ですが、家庭紙製品を例にすると、従来の紙製品に対して見た目の値上げ率(販売価格)は31.2%ですが、消費者に気づかれないように商品の内容量を減らすことで10.3%の付加的値上げを行うことにより、消費者に対する実質の値上げ率が34.9%になるということです。

世界的経済誌のフォーブス(Forbes)社によると、この一連のシュリンクフレーションの被害者は当然一般消費者だが、最大の加害者はダラー・ツリーやダラー・ゼネラル等のディスカウント・リテーラーだとレポートしています。

ダラー・ツリーは2021年に基本商品価格を1ドルから1.25ドルに引き上げ、2023年夏には5ドルの商品も導入しています。

フォーブスによると、値上げとシュリンクフレーションの組み合わせにより、ダラーショップの2023年の利益率は31.5%となっており、ウォルマートより7%、クローガーより10%も高い利益を得ているということです。

ディスカウント・リテーラーで買い物をする消費者は特に値上げに敏感なため、単純に商品の内容量を減らしたりサイズを小さくするという選択をしてしまうようです。

たとえば、Doveの石鹸6パック入りはダラー・ゼネラルで8ドルで売られていますが、内容量は1個3.17オンスです。 同じ銘柄の石鹸8パック入りはターゲットで10.99ドルで売られており、内容量は1個3.75オンスのため、見た目の価格はダラー・ゼネラルのほうが安いのですが、内容量を見るとターゲットのほうが1個につき5セントほど安く買える計算になります。

因みに、フランスの大手スーパーマーケットチェーンのカルフール(Carrefour)は、2023年9月からシュリンクフレーションを導入して店頭に並べている商品すべてにその情報を表示して販売する手法を取り入れており、消費者から賞賛を得ることに成功しています。

今後もモノの価格が上がり続けると予測されている中で、小売業者がどのように消費者に向き合っていくのか今後も注目していきたいと思います。

(2024.3.22配信/記事作成:イオンコンパス(株)海外仕入部)

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