英国食品小売市場で、ディスカウンターの存在感が一段と高まっています。
マーケティング調査会社Kantar社の最新データによると、2026年7月12日までの12週間で、リドル(Lidl)は英国グロサリー市場におけるシェアを前年より0.5ポイント伸ばし、売上高も前年同期比8.6%増と、実店舗型主要スーパーの中で最も高い売上伸長率を記録しました。
リドルが今強化しているのが、スマートフォンを使ったセルフスキャン機能「Lidl & Go」です。英国では有人レジ、セルフレジ、スマホスキャン、レジレス店舗など、チェックアウトの選択肢が広がっています。
Lidl & Goの実証拡大を起点に、英国食品小売市場におけるレジ戦略の変化と、ディスカウンターの競争軸の変化を整理します。
「Lidl & Go」、実証対象を44店舗に拡大
注目されるのが、リドルが英国で進めているセルフスキャン機能「Lidl & Go」の実証実験拡大です。同社は2026年7月、従来の7店舗に新たに37店舗を追加し、実証実験対象店舗を合計44店舗へ拡大しました。
「Lidl & Go」は、顧客が自分のスマートフォンで商品バーコードを読み取りながら買物し、最後にセルフレジで精算する仕組みです。専用端末ではなく、既存のLidl Plusアプリに機能を組み込んでいる点が特徴です。
英国では、セルフレジやレジなし店舗をめぐる実験が一巡しつつあります。
数年前には、カメラとセンサーで商品を自動認識するAmazon Goに倣ったJust Walk Out型の完全レジなし店舗が注目されました。しかし、アルディ(Aldi)はロンドン・グリニッジ店で実験していた「Aldi Shop & Go」を2026年3月に終了し、通常型のAldi Local店舗へ戻す方針を示しました。
「Aldi Shop & Go」は、AIカメラとセンサーで商品を自動認識し、レジを通らずに退店できる高コストなチェックアウトフリー方式でしたが、リドルの「Lidl & Go」は、顧客自身が商品をスキャンし、最後はセルフレジで支払う方式です。つまり、英国市場では完全無人店舗よりも、既存店舗に導入しやすく、顧客にも馴染みやすいセルフスキャン型が現実的な選択肢として広がりつつあります。
完全レジレスからセルフスキャンへ、実用化フェーズに
各社の取り組みを見ると、スマホスキャンやハンディ端末だけでなく、AIカートのような新しい実験も始まっています。一方で、完全レジレス店舗のような大規模投資型の仕組みよりも、既存店舗に導入しやすいセルフスキャン型の実用化が進んでいます。
以下は、英国主要食品小売企業のチェックアウト関連施策を整理したものです。
| 企業名 | チェックアウト関連の主な取り組み内容 |
|---|---|
| Lidl | Lidl Plusアプリで読み取り、セルフレジで決済する実証実験を2026年7月に37店舗追加して44店舗に拡大 |
| Aldi | AIカメラとセンサーによるJust Walk Out方式の無人決済実験Shop&Goを2026年3月に終了し、通常型セルフレジ中心としており、売場スキャン型は未展開 |
| Tesco | Clubcard会員向けのScan as you Shopを展開。2025年には重量検査やセキュリティ技術の実験も行い、利便性と不正防止の両立を進めている |
| Sainsbury’s | 2025年に端末内決済のSmartShopの実験を開始、アプリと店内ハンディ端末の両方を展開中 |
| Asda | 2020年にスマホアプリによるScan&Go Mobileを全スーパーおよび大型店に拡大し、現在は通常サービスとして定着している |
| Morrisons | 2026年7月28日、米Instacart社のAIショッピングカート「Caper Carts」を、英国小売企業として初めてPreston店に導入。商品認識、買物リスト、合計金額表示などが可能 |
このように、英国の主要食品小売企業では、有人レジ、通常セルフレジ、スマホスキャン、ハンディ端末などを組み合わせ、店舗や顧客層に応じて会計手段を選べるようにするハイブリッド型が主流になりつつあります。さらにモリソンズ(Morrisons)のAIカートのように、次世代型の実験も始まっています。
つまり、英国スーパーのレジ戦略は「完全無人化」へ一気に進んでいるわけではありません。むしろ、店舗規模や客層、買物量に応じて、有人レジ・セルフレジ・スマホスキャン・ハンディ端末を組み合わせる段階に入っています。
低価格だけではないLidlのデジタル戦略
この動きの背景には、英国食品小売市場の競争構造の変化があります。
英国グロサリー市場シェア(2026年7月12日までの12週間)
| 順位 | 企業名 | 市場シェア | 売上伸び率 | 概要 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Tesco | 27.9% | +1.7% | 英国最大手、シェアは高水準ながら伸びは緩やか |
| 2 | Sainsbury’s | 15.2% | +2.8% | シェアは前年15.1%から微増 |
| 3 | Asda | 11.5% | ▲1.1% | 減収、前月▲3.6%からは改善 |
| 4 | Aldi | 10.8% | +0.7% | Asdaとの差は0.7ポイントまで接近 |
| 5 | Lidl | 8.8% | +8.6% | 実店舗型で最も高成長、シェア前年同期比+0.5% |
| 6 | Morrisons | 8.5% | +3.5% | かつてのビッグ4の一角だが、Aldi、Lidlの成長により順位を下げている |
| 7 | Co-op | 5.4% | +5.6% | 2021年2月以来の高成長 |
| 8 | Waitrose | 4.4% | +2.5% | 前年並み |
| 9 | Iceland | 2.2% | +2.3% | 前年並み |
| 10 | Ocado | 2.2% | +14.1% | オンライン専業で最も成長 |
前述の2026年7月12日までの12週間における市場シェアを見ると、テスコ(Tesco)は27.9%で首位を維持し、セインズベリーズ(Sainsbury’s)が15.2%で2位、アズダ(Asda)が11.5%で3位となっています。一方、アルディは10.8%で4位、リドルは8.8%まで拡大し5位となっています。
この最新市場シェアで注目すべきは、リドルが単に売上を伸ばしているだけでなく、モリソンズを上回る水準までシェアを拡大している点です。英国では長らくテスコ,セインズベリーズ,アズダ,モリソンズの「ビッグ4」が市場を牽引してきましたが、アルディとリドルの成長により、近年その構図は大きく変化してきました。
特にリドルは、価格訴求に加えて、Lidl Plusアプリ、パーソナライズクーポン、Lidl Points、Lidl Pay、そして今回のLidl & Goを組み合わせることで、低価格を強みとするディスカウンターから、デジタル接点を活用して買物体験を高める小売企業へと進化しようとしています。
価格競争に加わる“買いやすさ”という新軸
英国では、2026年7月12日までの4週間におけるグロサリー価格インフレ率が2.6%となり、前月の3.0%からは低下しました。これは2024年12月以来の低い伸び率であり、食品価格の上昇ペースはやや落ち着いています。
とはいえ、食品価格が下がったわけではなく、平均世帯の年間食品支出も5,530ポンドと、前年より156ポンド増えており、英国の消費者にとっては、値上がりの勢いは弱まったが、買物金額は依然として高いという状況です。
買物中に合計金額を確認できるセルフスキャンは、時短だけでなく、予算内で買物を進めるための家計管理ツールとしても意味を持ちます。リドルも、実験店舗の利用客から支出を把握しやすいという反応があったことを、展開拡大の理由の一つに挙げています。
リドルのLidl&Go拡大は、レジ改革であると同時に、英国スーパーの競争が、価格の安さだけでなく買いやすさにも広がっていることを示しています。ディスカウンターがシェアを伸ばす中で、価格の安さだけではなく、買物のしやすさ、支出の見える化、アプリ販促、ロイヤルティ強化まで含めた総合的な買物体験が競争テーマになりつつあるようです。
リドルの実験拡大は、その流れをディスカウンターが本格的に取り込み始めた好事例と考えられます。