ビッグ4に黄色信号!? 英国食品小売企業最新マーケットシェア

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昨年5月のメールマガジン「転換期到来の英国食品小売市場」にて、2018年4月時点の英国食品小売り市場シェアについてご紹介しましたが、その後の最新の食品小売り市場についてご報告いたします。

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転換期到来の英国食品小売市場

転換期到来の英国食品小売市場

ウォルマート(Walmart)が同社の傘下企業で、英国市場3番目のシェアを持つアズダ(Asda)を、シェア2番目のセインズベリーズ(Sainsbury’s)に売却することで合意したという大きなニュースが、4月末に発表されました。英国の食品小売市場については、今年の3月のメールマガジン「独アルディに対抗!英国小売業最新事情」にてご紹介したばかりですが、改めて最新事情をお伝えします。 テスコ(Tesco)、セインズベリーズ(Sainsbury’s)、アズダ(Asda)およびモリソンズ(Morrisons)の4社がビッグ4と呼ばれて久しい英国の食品小売市場ですが、今回の合併が完了すると、現時点の構図では2社のシェアが31.40%となり、これまで断トツでトップを走って来たテスコの27.60%を上回ることになります。 アズダのセインズベリーズへの売却はCMA(英国公正取引員会)の正式な承認が必要となりますが、承認された場合、2019年末までにすべての売却手続きが完了することになります。今回の合併により、2社の店舗は2,800店舗を超え、売り場総面積1,100万㎡で、総売上額510億ポンドの巨大企業となります。合併による効率化により約5億ポンドのコスト削減と、仕入強化により、商品販売価格を1割ほど下げることが可能になると見られており、相変わらず市場シェアと売り上げを伸ばし続けるアルディ(Aldi)とリドル(Lid)に対しても、大きな効果があると思われます。 売却後も、アズダの店舗バナーは変更しない予定とのことですが、英国の商業不動産情報誌であるエステーツ・ガゼット(Estates Gazette)誌によると、現在、アズダ店舗の23%と、セインズベリーズ店舗の12%が1キロ圏内でバッティングしているとのことです。そのため、ある程度の店舗の整理が発生すると予想されていますが、それぞれの企業がこれまで得意としてきた商圏と顧客層を有効的に活かすことで、英国における食品小売市場の勢力図がさらに大きく変わっていく可能性があります。 英国の2017年度の食品小売市場全体の規模は約1,920億ポンドであると、ドイツを拠点とする世界的データ統計配信企業であるスタティスタ(Statista)社から発表されています。これは、北米全体の市場規模(約6,400億ドル)の約4割程度ですが、英国の人口規模が北米全体の約2割ということを考えると、英国の食品小売市場がいかに競争の激しい市場であるかがわかります。 また、2社の合併は、英国で急速に存在感を強めているアマゾン(Amazon)への対抗措置ではないかと言われています。これは、ロンドンを拠点に国際的な金融サービス事業を行っているエンバーク・グループ(Embark Group)の調査部門最高責任者であるMr.Peter Toogood氏が、世界的経済ニュースチャンネルのCNBCの取材に対し述べたものです。 世界的調査会社であるグローバルデータ(Global Data)社によると、英国の小売市場全体で2017年の1年間に消費された金額の約4%が、アマゾンのプラットフォームであったとのことです。2017年の英国内のオンライン小売りの売り上げ伸び率は、全体が8.4%だったのに対し、アマゾンのプラットフォームでは22.5%と、アマゾンの脅威が増していることがわかります。また、2017年の英国におけるオンライン売り上げに占める割合は、2016年の29.6%から33.5%へと上がり、全体の3分の1を占めるまでになったということです。 食品小売に関しては、英国はアマゾンが食品宅配のアマゾン・フレッシュを導入している3ヵ国(アメリカ、ドイツ、英国)の一つであり、アマゾンが最重要視している国となっています。 更に、アマゾンは食品小売市場シェア8位のアップスケールスーパーチェーンのウェイトローズ(Waitrose)の買収に向けて交渉を続けているという一部の情報もあります。 次々と変化が起こり、転換期を迎えた英国食品小売市場の動向に今後も注目して行きたいと思います。 (2018.05.21配信)

当時大きく報道されたセインズベリーズとアズダの合併は、結局CMA(英国公正取引委員会)の承認が下りずに実現しませんでしたが、ドイツ発のハード・ディスカウントチェーンのアルディとリドルによる英国小売り市場への攻勢は相変わらず続いているようですので、続報としてご紹介します。

以下、英国の市場調査会社の「カンター・ワールドパネル(Kantar Worldpanel)」社が発表している、2019年9月08日までの12週間の食品小売り市場シェアです。

◎2019年9月08日時点の食品小売り市場シェア

順位小売企業名最新シェア2018年4月シェア前回対比
2019年9月8日2018年4月18日
11テスコ(Tesco)26.90%27.90%▼1.00%
22セインズベリーズ(Sainsbury’s)15.30%16.20%▼0.90%
33アズダ(Asda)15.10%15.60%▼0.50%
44モリソンズ(Morrisons)9.90%10.60%▼0.70%
55アルディ(Aldi)8.10%7.00%△0.90%
66コープ(Co-op)6.60%5.80%△0.80%
78リドル(Lidl)6.00%5.40%△0.60%
87ウェイトローズ(Waitrose)5.00%5.10%▼0.10%

地元英国のビッグ4と呼ばれる上位4企業が軒並みシェアを落としていることが分かります。

かつてはこの4社だけで、全体の8割以上のシェアを独占し、超寡占マーケットと呼ばれていた英国の食品小売り市場ですが、最新のデータではこの4社のシェアは67.20%となっており、昨年4月の70.30%から3.1ポイントも落としています。特に4位のモリソンズと5位のアルディの差が、この1年半で3.60%から1.80%と半分にまで縮まってきており、近い将来永年にわたって市場をリードしてきたビッグ4の牙城が崩れる可能性が高いということです。

実際に、アルディは現在英国内に約840店舗を展開してますが、2021年までに新たに100店舗をオープンすると発表しており、今年の7月以降すでに12店舗を新規出店し、年内にあと9店舗のオープンも確定するなど、出店攻勢が止まらない状況です。同社は2025年中に1,200店舗まで拡大するということです。

一方のモリソンズは、不採算店舗を閉店して雇用の削減を進めるというニュースが発表されており、アルディが4番目の位置に入るのは時間の問題のようです。

また、アルディのライバルであるリドルも順調にシェアを伸ばしています。

リドルは現在英国内で約740店舗を展開していますが、毎年約50店舗を継続的に新規出店しており、英国進出後初めて市場シェアで6%に到達しました。カンター・ワールドパネル社によると、リドルは今年に入り前年比で約61.8万人の新規顧客を獲得することに成功したということです。

シェアトップを走るテスコは、アルディとリドルに対抗するため、ちょうど1年前にハードディスカウント業態のジャックス(Jack’s)を10店舗出店しましたが、1年を待たずに1号店を閉鎖しました。

世界的市場調査会社のTCCグローバル(TCC Global)社によると、全世界の食品小売り企業の中でアルディとリドルが商品のバリュー(価値)の部門において、断トツのトップに立っているとのことです。テスコが同じ土俵で対抗し、顧客を獲得するのは難しく、自社の優れた部分で対抗することが必要だと述べています。同社の調査では、テスコはアメリカのクローガーと並んで、顧客へのリワードプログラムが秀逸という評価を得ており、店舗内の買い物体験の分野ではマークス&スペンサーとウェイトローズがアメリカのトレーダー・ジョーズと並んでトップとのことです。マークス&スペンサーとウェイトローズは顧客ケアの部門でもトレーダー・ジョーズとコストコと並んでトップの評価となっています。

ちなみにテスコはイスラエルのスタートアップ企業のトリゴ・ビジョン(Trigo Vision)社と提携して、人工知能や160台以上のセンサーカメラなどを使用したアマゾン・ゴーと同様のチェックアウト・フリー店舗のテストを開始すると発表しました。すでにテスコ本社内の店舗で従業員向けのテストを開始しているということで、買い物体験の部門への投資も開始しています。

今後も、英国トップのテスコをはじめとするビッグ4が、アルディやリドルにどのように対抗していくのか、引き続き注目し、定期的にご紹介していきたいと思います。

(2019.10.16配信)

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