セインズベリー(Sainsbury’s)が万引き対策・防犯のため顔認証をテスト導入

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イギリスの大手スーパーマーケットチェーンのセインズベリー(Sainsbury’s)が、2025年9月2日から、ロンドンSydenham店とバースOldfield Park店にて、Facewatch社が提供する最新の顔認証技術を試験導入したと発表しました。

これは英国内で年間47万件にも及ぶ万引きや従業員への暴力等の犯罪を未然に防ぐためのシステムで、Facewatch社の顔認証は、過去に暴力的、攻撃的、窃盗歴のある常習犯の顔を識別・警告するものです。この試験的導入は8週間続けられる予定で、その経過次第では全国の店舗への拡大も視野に入れているということです。

ちなみに、万引き、不正会計防止という点でいうと、フランスではVeesion社のジェスチャー分析技術を導入した店舗をフランプリ(Franprix)が試験運用しています。万引きの可能性のある行動・ジェスチャーを解析し、従業員に警告するというものです。

また、アメリカのウォルマート(Walmart)は全米の1,000店舗以上で、セルフレジのスキャン漏れをAIカメラで検知し、従業員に即時通報する仕組みを運用中です。 

クローガー(Kroger)もEverseen社のAI技術を導入し、セルフレジのスキャン漏れ、不正パターン検出を進めているという情報もあります。

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急速に普及が進み、私たちの身近な存在になりつつあるセルフレジ。利用者にとっては「待ち時間の短縮」、店舗にとっては「人手不足や人件費高騰への対応」に役立つ仕組みとして期待され、ここ数年で多くの国・地域に広がってきました。 一方で最近、「無人での支払い」「キャッシュレス決済限定(現金不可)」といった運用に対して、消費者が抵抗感や不安を抱いている様子が、国内メディアでも取り上げられています。こうしたセルフレジをめぐる議論は、実は欧米では2023年ごろから先行しており、日本より早い段階で顕在化して、企業ごとの店舗運営にも変化が見られ始めています。 今回は、欧米、特にアメリカの事例を中心に、セルフレジ見直しの背景・社の対応と運用の方向性・アメリカ店舗視察での着眼点を整理し、日本の小売・サービス業にとっての示唆を考えていきます。 欧米で広がる「セルフレジ見直し」とその背景 人手不足・省人化ニーズを背景に進んだ普及 アメリカでは、2020年代に入り、人手不足や人件費の上昇を背景として、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)をはじめ、ディスカウントチェーンのダラー・ゼネラル(Dollar General)やアルディ(Aldi)など、幅広い業態でセルフレジの導入が進みました。 「レジ1台あたりの人件費を抑えられる」「ピーク時の待ち時間を短縮できる」といった期待から、多数の店舗でセルフレジが導入され、一部ではセルフレジ比率を高めた店舗運営も試されています。 一方で、実際の運営現場では次のようなオペレーション面の負担に加え、セルフレジを巡ってより構造的な課題も顕在化しました。 エラー対応や年齢確認のために、結局スタッフが常駐する必要がある 操作に慣れない顧客が多い店舗では、かえって行列が長くなることがある 高齢者やデジタル機器に不慣れな顧客にとって、心理的ハードルが高い シュリンク(在庫ロス)の悪化 大きな論点となっているのが、万引きなどによる在庫ロス(シュリンク)の悪化です。 セルフレジでは、スキャン漏れや、安価な商品としてスキャンして高額商品を持ち帰るといった不正行為が発生しやすくなります。意図的なものだけでなく、操作ミスやバーコード位置の分かりにくさなど、非意図的な要因によるロスも含まれます。 全米小売業協会(NRF)の調査によれば、企業が報告した万引き事件の発生件数は、2023年時点でコロナ前の2019年比93%増という数字が示されています。 こうした在庫ロスの増加は、セルフレジそのものだけではなく小売業全体の構造的な問題とも言えますが、セルフレジ周辺はとくにリスクが意識されやすいエリアとなっており、各社の見直しのきっかけにもなっています。 顧客体験と受け止め方 セルフレジに対する顧客の受け止め方も、見直しの背景のひとつです。 「エラーが出るたびにスタッフを呼ぶなら、有人レジのほうが気が楽だ」 「自分でスキャンして袋詰めまでしているのに、支払金額は変わらない」 「キャッシュレスのみ対応で、現金が使えず不便に感じる」 このような声が出ており、店舗によっては、セルフレジの「便利さ」よりも「面倒さ」や「不公平感」のほうが意識されるケースもあると指摘されています。 また、防犯対策としてカメラやゲート、警告表示などを強化すると、「常に見られているようで落ち着かない」「正しく利用しているのに疑われているように感じる」といった心理的負担につながることもあり、効率性と顧客体験のバランスをどう取るかが課題となっています。 セルフレジ対策と運用見直しの方向性 デジタル技術を活用した不正・ロス対策 セルフレジ導入に伴う課題が具体的になったことで、企業は単に撤去するだけでなく、デジタル技術を活用した対策と組み合わせながら運用方法を見直しています。 代表的な例として、以下のような取り組みが見られます。 セルフレジ周辺のカメラやコンピュータビジョンによる不正検知 重量センサーとの連動を強化し、未スキャン商品の検知精度を高める 会員アプリと連携させた「スキャン&ゴー」など、セルフレジとモバイルを組み合わせた運用 イギリスのセインズベリー(Sainsbury’s)では、Facewatch社の顔認証技術を試験導入し、過去に問題のあった常習犯を識別して店舗側に警告する仕組みをテストしています。 アメリカのウォルマート(Walmart)は、セルフレジエリアでAIカメラを活用し、スキャン漏れなどを検知して従業員に通知するシステムを運用しています。食品スーパー大手のクローガーも、Everseen社のAI技術を導入し、不正パターンの検出を進めていると報じられています。 利用条件の見直しと縮小 セルフレジの利用条件や台数を見直す動きも各社で進んでいます。 アメリカ48州で約19,700店舗を展開するダラー・ゼネラル(Dollar General)は、セルフレジの削減を急速に進めています。すでに約12,000店舗でセルフレジの廃止または台数削減を実施しており、売上が伸び悩む店舗などを中心にセルフレジを見直す方針を示しています。 完全にセルフレジを廃止した店舗では、従来の有人レジまたはアシスタント付きセルフレジに切り替え、万引き等による損害額の縮小を図っています。セルフレジを残す店舗でも、一部の売上好調店に限り、セルフレジで精算できるのは5品目以下に限定されるとしています。 ターゲットは、セルフレジを「少量購入向けのエクスプレスレーン」と位置づけ、一定点数以上の購入は有人レジの利用を基本とする方針を打ち出しました。ウォルマートでも、一部店舗でセルフレジレーンの撤去や有人レジへの切り替えが行われたことが報じられています。 有人レジ・対面サービスを重視する動き セルフレジを拡大するのではなく、「あえて有人レジ・対面サービスを重視する」という判断を行っている企業もあります。 イギリスの高級スーパー「Booths」は、2023年に28店舗中26店舗でセルフレジを撤去し、有人レジに切り替えました。理由として、「セルフレジは信頼性が低く、人間的な温かみがない」といった顧客からの声が多かったことが挙げられています。効率性よりも、顧客とのコミュニケーションやサービスを重視した例といえます。 米国のトレーダー・ジョーズ(TRADER JOE’S)は、そもそもセルフレジを導入せず、レジでの対面コミュニケーションを重視する方針を取っています。同社はレジを「買物の締めくくり」と位置づけ、スタッフとの会話を通じて顧客体験を高める戦略をとっており、有人レジをあえて維持しているチェーンの代表例と言えます。 アメリカ店舗視察でセルフレジを見るときの着眼点 アメリカの店舗でセルフレジを見る際は、どんな機械が置かれているかという「モノ」よりも、それをどのように運用しているかに注目すると、自社で検討する際のヒントが得やすくなります。 具体的には、セルフレジと有人レジの台数や配置、曜日・時間帯による稼働状況、どちらのレーンに行列ができているかを見ることで、その店舗がセルフレジをどのような役割として位置づけているかが見えてきます。また、セルフレジまわりに何人のスタッフを配置し、エラー対応や年齢確認、操作サポートなどにどの程度時間を割いているかも重要なポイントです。 あわせて、カメラやゲート、警告表示、高額商品・酒類の扱いなど、不正防止の工夫やレジ周辺のレイアウトにも目を向けると、シュリンク対策の実際が分かります。 セルフレジ画面の表示内容や多言語対応の有無、来店客がどこで戸惑っているかを観察し、さらにモバイルアプリの「スキャン&ゴー」やオンライン注文との連携があれば、その位置づけも含めて見ることで、セルフレジを含む購買体験全体の設計を立体的に捉えることができます。 おわりに 欧米、とくにアメリカでは、人手不足や省人化ニーズを背景にセルフレジの導入が広がった一方で、万引き・シュリンクの悪化や顧客体験の課題を受けて、各社が運用の見直しに動いています。 その際の論点は、「セルフレジをやめるか/続けるか」という二者択一ではなく、どの店舗・どの時間帯・どの客層に対してセルフレジをどう位置づけるか、人とデジタル技術をどのように組み合わせて運用するか、といった設計の問題になりつつあります。 日本の小売・サービス業にとっても、セルフレジは人手不足対策にとどまらず、顧客体験・防犯・デジタル戦略をどう組み合わせるかを考えるきっかけになります。海外視察の場では、機械そのものだけでなく、その裏側にある運営の考え方や店舗全体の設計に目を向けることで、自社にとって現実的な解決策を検討するヒントが得られるはずです。

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