
全米小売業界(NRF-National Retail Federation)が2025年最新の「NRF世界の小売企業トップ50」ランキングを発表しました。
このランキング調査は、NRFが、世界的マーケティング企業カンター・グループ(Kantar Group)と共同で調査し、独自のポイントシステムにより世界の小売市場において最も影響力のある小売企業トップ50をランキングしたものです。
昨年2024年も、弊社トレンドピックアップ記事”2024「NRF世界の小売企業トップ50」”で取り上げた、注目のランキングです。ぜひご注目ください。
ランキング決定基準およびポイントシステムの特徴
本ランキングの対象企業は、最低3ヶ国以上でビジネスを展開している小売企業に限定しています。カンター・グループによる特別編成されたアナリストチームが、年次報告書・プレスリリース・公的資料・消費者調査データなど、複数の情報源から2024年初頭時点の小売収益や業績に関するデータを収集・精査し、その上で、独自のポイントシステムを用いてランキングを決定しています。
このポイントシステムの大きな特徴は、拠点国以外での国際事業展開に高いポイントを付与し、国内事業へのポイントは抑えられている点です。これにより、よりグローバルに展開し成功をおさめている企業が上位にランクインしやすい設計となっています。そのため、順位は単純な総収益額には比例しません。海外事業でのパフォーマンスが高く評価された企業ほど多くのポイントを獲得する仕組みとなっており、真にグローバルな視点で成功している小売企業を可視化するランキングとなっています。
世界の小売企業トップ50
2025年最新の世界の小売企業トップ50を、『トップ10小売企業』『その他主な小売企業』別にまとめております。
トップ10小売企業
順位 | 企業名 | 拠点国 | 業種 | 総収益(10億ドル) | 集計ポイント | 2024年順位 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ウォルマート(Walmart) | 米 | SM | 676 | 502 | 1 |
2 | アマゾン・ドットコム(Amazon.com) | 米 | EC | 393 | 376 | 2 |
3 | シュバルツ・グループ(Schwarz Group) | 独 | DS | 182 | 279 | 3 |
4 | アルディ(Aldi) | 独 | DS | 155 | 252 | 4 |
5 | コストコ(Costco) | 米 | MWC | 246 | 218 | 5 |
6 | アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize) | 蘭 | SM | 99 | 164 | 6 |
7 | カルフール(Carrefour) | 仏 | SM | 98 | 142 | 7 |
8 | セブン&アイ(Seven & I) | 日 | CVS | 90 | 100 | 8 |
9 | イケア(IKEA) | 蘭 | HC | 51 | 99 | 10 |
10 | ホーム・デポ(The Home Depot) | 米 | HF | 155 | 92 | 9 |
その他 主な小売企業
順位 | 企業名 | 拠点国 | 業種 | 総収益(10億ドル) | 集計ポイント | 2024年順位 |
---|---|---|---|---|---|---|
11 | ウォルグリーン(Walgreens Boots Alliance) | 米 | Dgs | 124 | 82 | 11 |
12 | レーヴェ(REWE) | 独 | SM | 72 | 70 | 12 |
20 | テスコ(Tesco) | 英 | HM | 67 | 47 | 20 |
21 | イオン(Aeon) | 日 | SM/SC | 74 | 44 | 22 |
23 | オーシャン(Auchan) | 仏 | HM | 34 | 38 | 24 |
25 | ファースト・リテイリング(Fast Retailing) | 日 | EC/SS | 24 | 33 | 32 |
34 | ベスト・バイ(Best Buy) | 米 | CE | 43 | 27 | 34 |
38 | ファミリーマート(Family Mart) | 日 | CVS | 29 | 22 | 41 |
44 | プライマーク(Primark) | 英 | EC/SS | 12 | 16 | ― |
48 | ローソン(Lawson) | 日 | CVS | 23 | 15 | 50 |
2025年ランキングの特徴
トップ10ランキングの顔触れは昨年と同じで、9位のイケアと10位のホーム・デポ(Home Depo)の順位が入れ替わっただけでしたが、昨年に比べて最も顕著な変化は、統合型コマース(AI & Unified Commerce)が本格化したという点です。
AI、特に生成AIを活用した在庫予測、プライシング、自動化サービスや、顧客のパーソナライゼーション等がグローバル小売企業にとって重要な戦略となってきており、これまでのチャネルごとの販売から脱却し、オンラインと実店舗の売り上げをはじめとするデータを一体化する統合型コマースへのシフトが進み、買い物における効率化と、買い物体験の向上に大きく貢献しているということです。
また、これまでPR的な環境対策が多かったのに対し、今回は実質的な環境配慮への投資規模が増加しており、こういったESG・サステナビリティに積極的な企業への評価が高まったのも大きな特徴の一つということです。単なる売り上げ成長だけではなく、テクノロジーとサステナビリティを軸にした行動が得点に直結するようになりました。
トップの座を維持したウォルマート
昨年2024年に続き、今年もランキングのトップはウォルマート(Walmart)となりました。世界最大の小売企業としての地位を堅持しており、特に近年は収益性の高いデジタル分野への進出を加速させています。
注目すべきは、会員制サービス「ウォルマート・プラス(Walmart+)」の急成長です。世界的金融機関モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)が2025年1月に発表した調査によると、ウォルマート+の会員数は約2,650万人に達し、米国全世帯の20%以上が利用していることがわかりました。さらに、直近3か月の成長率は35%以上と、勢いが加速しています。
会員数ではアマゾン、実購買ではウォルマートが圧倒
一方で、会員数ではアマゾン・プライム(Amazon Prime)が依然圧倒しています。調査会社CIRP(Consumer Intelligence Research Partners)によると、2025年3月時点でアマゾン・プライム会員数は約1億9,600万人と、ウォルマート+を大きく上回っています。これはアマゾンがウォルマートより約15年早くサブスクリプションサービスを開始した先行者メリットによるものです。
しかし、ペイメンツ・ドットコム(Pymnts.com)の調査では、「両方のサービスに加入しているデュアル会員」の直近食料品購入のうち、44%がウォルマート+経由、アマゾン・プライム経由はわずか4.1%にとどまっています。さらに、大手シンクタンクのコアサイト・リサーチ(Coresight Research)によるデータでは、アマゾン・プライム会員の約60%がウォルマートからオンラインで食料品を購入した経験があるのに対し、ウォルマート+会員でアマゾン・プライムから購入した割合はほぼゼロでした。これらのデータは、グロサリー(食品・日用品)市場におけるウォルマートの圧倒的な強さを裏付けています。
今後も、世界の小売市場を牽引するウォルマートとアマゾンによるデジタル領域での競争に目が離せません。
備考:業種表記
- SM スーパーマーケット
- EC オンライン小売
- DS ディスカウンター
- MWC 会員制ホールセール・クラブ
- CVS コンビニエンスストア
- HC ホームセンター
- HF ホームファッション
- Dgs ドラッグストア
- HM ハイパーマーケット
- SC ショッピングセンター
- SS スペシャルティ・ストア
- CE 家電量販店