苦境が続くアメリカ百貨店業態 ~2024年上期純売上高推移~

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弊社10月25日付トレンドピックアップ「苦境が続くアメリカ百貨店業態」にて、2024年前半までの財務諸表を発表したアメリカの主要百貨店の、前年同期比純売上高の推移についてご紹介しました。

米国主要百貨店の2024年上期純売上高推移

企業名2024年上期純売上高推移(前年同期比)
メイシーズ(Macy’s)▲98億ドル(-3.3%)
コールズ(Kohl’s)▲67億ドル(-4.7%)
JCペニー(JC Penny)▲28億ドル(-8.5%)
ディラーズ(Dillard’s)▲30億ドル(-3.6%)
ノードストロム(Nordstrom)△70億ドル(+4.2%)
※Retail Dive社情報

このデータは、様々な業界のマーケット・トレンドを調査しているインダストリー・ダイブ(Industry Dive)社の小売業界の調査部門のリテール・ダイブ(Retail Dive)社がまとめたものです。

ノードストロム以外の企業が軒並み前年比で売り上げを落としておりますが、アメリカの百貨店の年間売上額を見ていくと、2023年度の売上合計額は約1,327憶ドルで、これは新型コロナのパンデミックで大きく売り上げを落とした2020年度の1,123億ドルに次いで、過去2番目に少ない売上高となっています。

かつて、アメリカの小売業の主要プレイヤーだった百貨店も、その売上高はピークだった2000年度の約2,325億ドル以降は、2020年度まで右肩下がりが続いており、2021年度に約1,335億ドル、2022年度に約1,360億ドルとやや盛り返したものの、再び減少傾向になりました。

百貨店業態の不振の最大の理由

リテール・ダイブ社はこの百貨店業態の不振の最大の理由として、かつて成功したビジネス・モデルに固執し、1990年代半ばから始まったオンラインショッピングの波に乗り遅れたことと、ほぼ同時期に始まったオフプライス小売企業の台頭によるものとしています。

オンラインショッピングは、1994年にアマゾン(Amazon)、翌年1995年にイーベイ(eBay)が相次いで創業し、急成長を遂げました。

オフプライス業態自体は、1972年にバーリントン(Burlington Coat Factory)が1号店をオープンし、1976年にTJマックス(TJ Maxx)が現在のオフプライス業態ビジネス・モデルの先駆けとしてブランド商品を破格なディスカウント価格で提供して注目を集めました。

TJマックスは1976年マーシャルズ(Marshalls)を買収し、オフプライス業態に再編し、全国規模で店舗を拡大しました。

1982年にはロスストアーズ(Ross Stores)も追随し、現在のアメリカを代表するオフプライス企業が出そろいました。

この業態は、1980年代後半から1990年代にかけて人気が高まり、その後の景気変動や消費者の節約志向を背景に、2000年代から現在にかけてリーマンショックやパンデミックといった経済的な停滞を背景に強みを発揮し急成長を遂げました。

唯一売上高を伸ばすノードストロム

百貨店にとって厳しい環境が続いている中、いち早くオンラインショッピングへの対応と、オフプライス店舗の立ち上げたのが今回唯一売上高を伸ばしているノードストロムです。

同社は1973年にオフプライス業態店舗のノードストロム・ラック(Nordstrom Rack)を立ち上げ、2024年8月03日現在全米41州で269店舗まで拡大しました。

フルライン店舗数を93店舗まで縮小しつつ、通常価格から30%~70%割引で商品を提供するオフプライス店舗に軸足を移しており、現在ではノードストロムの売り上げ全体の50%を占めるまで成長しました。

また、ノードストロムがオンラインストアのノードストロム・ドットコム(Nordstrom.com)を1998年にスタートし、2008年にはオンライン注文品を店舗で受け取るカーブサイド・ピックアップを導入、2011年には自社アプリを発表し本格的オムニチャネル・サービスを開始し、全体売り上げの約40%をオンラインが占めるまでになりました。

百貨店のオフプライス業態への取組

百貨店のオフプライス業態への取り組みは、遅ればせながらメイシーズが2015年にメイシーズ・バックステージ(Macy’s Backstage)をスタートしました。主に衣料品、アクセサリー、家庭用品を通常のメイシーズ店舗よりも20%~80%安い価格での提供をするもので、2024年10月時点で319店舗まで拡大しました。一方で、メイシーズはフルラインの店舗は現在約540店舗展開中ですが、今後3年間で150店舗の閉鎖を予定しており、オフプライス業態へのシフトチェンジと、同社が並行して進めているフルサイズ店舗の約5分の1のサイズの小型店舗も2025年までに30店舗出店する計画を発表しております。

メイシーズ傘下の高級志向百貨店チェーンのブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)も2010年にブルーミングデールズ・ジ・アウトレット(Bloomingdale’s The Outlet)を立ち上げ、デザイナーズブランドやラグジュアリー商品のアウトレット販売を開始するなど、オフプライス事業へのシフトを進めています。

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今後もアメリカの小売市場における百貨店の動向について注目して行きたいと思います。

(2024.11.18配信/記事作成:イオンコンパス(株)海外仕入部)

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