
Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)は、オーガニック食品を中心に「健康」「環境」「地域」をキーワードに進化してきたスーパーマーケットです。創業から40年以上を経た今もなお、食と小売の在り方を世界に問いかけ続けています。
2017年にAmazonの傘下に入って以降、テクノロジーと食の融合が進み、ホールフーズは単なるスーパーマーケットの枠を超えた存在へと変わりつつあります。今回は、その歩みと仕組みを分かりやすく解説し、日本の流通業界にとってのヒントを探ります。
アメリカで生まれた“自然派スーパー”の原点
創業と理念
~本社および本店がある、テキサス州オースティンの店舗~
ホールフーズは1980年、テキサス州オースティンで創業しました。当時のアメリカでは“オーガニック食品”という概念がまだ浸透しておらず、自然食品を扱う小さな専門店が点在する程度でした。
その中で創業者ジョン・マッキー氏は「食を通じて人と地球を健やかにする」という理念を掲げ、倫理的で環境にやさしい食の流通を実現しようとしました。
拡大の軌跡
1980年代後半から1990年代にかけて、ホールフーズは買収と新規出店を重ねながら全米に拡大し、2000年代には“食の信頼ブランド”としての地位を確立し、現在では北米・英国で500店舗以上を展開しています。
ホールフーズの存在は、アメリカに「食の選択がライフスタイルを語る時代」をもたらしたとも言えるでしょう。
「信頼で選ばれる」ホールフーズのビジネスモデル

ホールフーズ・マーケットの強みは、単なる高品質食品の販売ではありません。
同社は、明確な品質基準・地域連携・ブランド哲学をビジネスモデルの中心に据えています。
三つの柱:品質・地域・ブランド
ホールフーズのビジネスモデルは、品質へのこだわり、地域密着の調達、そして一貫したブランド戦略によって支えられています。
軸 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
品質へのこだわり | 人工香料・保存料を徹底排除し、独自の「不許容成分リスト」を制定。 | どの商品を選んでも”安全で信頼できる”売場を実現。 |
地域との共生 | 各地域で地元生産者と直接契約し、店ごとに品揃えを変化。 | フォレジャー(食材探索者)が地域の特色を発掘。 |
ブランド戦略 | プライベートブランド「365 by Whole Foods Market」を展開。 | オーガニックを”日常使い”にする価格帯を提案。 |
ホールフーズの店舗では、これら三軸が有機的に連動しています。信頼できる品質とローカルなストーリーを持つ商品を、ブランド全体の一貫した世界観で包み込み、顧客に“食の体験”として提供しています。
フォレジャー制度とローカル経済
ホールフーズの特徴のひとつが“地域共創”です。店舗ごとに「フォレジャー(Forager)」と呼ばれる担当者が存在し、地元の農家や中小メーカーと直接対話します。
フォレジャーは、一般的なスーパーマーケットのバイヤーとは異なり、「中央集約的な仕入れでは拾えない地域の価値」を探すことを目的にしており、全国規模の調達ラインではなく、“地域ごとに異なる個性”を商品として売場に反映させる役割を担っています。
チェーンでありながらも地域の個性を反映した品揃えを実現し、地域経済の循環にも貢献しています。
“買う場所”から“体験する場所”へ
ホールフーズの店舗は、単なる販売の場ではなく「食を体験する空間」として設計されています。木材や緑を多用した内装は“自然と調和するデザイン”を象徴し、訪れるだけで気分が高まる空間を演出しています。
店舗フォーマットの進化
都市部では小型フォーマット「Whole Foods Market Daily Shop」を展開し、オフィス街や駅近に進出しています。一方で郊外型店舗では、デリカ・ベーカリー・カフェを併設し、家族で楽しめる“食の複合空間”を作り上げています。
フォーマット | 立地 | 特徴 |
---|---|---|
大型店 | 郊外・住宅地 | 体験型・ファミリー層向け。デリやイートイン併設。 |
Daily Shop | 都市部・駅近 | 小型・高回転型。ワンハンド商品中心。 |
サステナビリティと倫理的調達

独自基準による格付け制度
ホールフーズは「Responsibly Grown(責任ある栽培)」制度を導入し、化学物質使用・環境保全・労働条件の観点から農産物を評価しています。畜産では「Global Animal Partnership(GAP)」制度を採用し、動物福祉に配慮した生産体制を推進しています。
店舗運営でも“持続可能”を実践
店舗照明には再生可能エネルギーを活用し、包装材リサイクルにも積極的です。環境負荷の低減を日々のオペレーションに組み込み、企業の理念と現場の実務を一致させています。
Amazonによる変革とデジタル融合
2017年、Amazon(アマゾン)がホールフーズを約137億ドルで買収し、Amazonグループの一員に加わりました。この買収の狙いは「リアル店舗を持つことで食品市場に参入し、オンラインとオフラインの垣根をなくす」ことにありました。
買収後に起こった変化
買収後、ホールフーズではPrime会員向けの割引制度が導入され、店舗とAmazonアプリが連携しました。また、オンライン注文・店舗受け取り・宅配といった購買チャネルの統合が進み、Amazonの物流インフラがホールフーズの運営に組み込まれています。
さらに、「Amazon Fresh」や「Amazon Go」とのデータ連携を通じて、購買履歴や在庫情報がリアルタイムで共有されるようになりました。地域別需要の分析やダイナミックプライシング(価格最適化)も可能となり、従来の食品小売にはなかった“データドリブン経営”が実現しつつあります。
データと体験の融合
Amazonのデータ分析力を活かすことで、顧客ごとの購買傾向を可視化し、よりパーソナライズされた提案が可能になりました。「データで理解し、店舗で体験させる」という観点の最前線に立っているといえます。
競合との比較とブランドの立ち位置
企業名 | 特徴 | 価格帯 | 強み |
---|---|---|---|
Whole Foods Market | オーガニック専門+Amazon連携 | やや高め | 信頼性・ブランド力 |
Trader Joe's | 自社開発商品中心・遊び心ある店作り | 中価格帯 | 限定感・デザイン性 |
Sprouts Farmers Market | 青果中心・健康志向 | 中~やや低価格 | 鮮度と価格のバランス |
Walmart / Kroger | 量販型。オーガニック商品拡充中 | 低価格 | スケール・利便性 |
上記は、競合の主なプレイヤーをまとめたものです。ホールフーズは「価格競争」ではなく「価値競争」で勝負しています。“健康的で信頼できる食”を提供するブランドとしての立場を守り続け、顧客の共感を軸に市場を維持している点が特徴です。
日本の小売業へのヒント
ホールフーズの売場は、商品の陳列方法や照明、POPまでがブランドストーリーを伝える媒体になっています。日本のスーパーも「体験」「物語」「共感」を組み合わせることで、価格以外の価値を提示できるはずです。
また、ローカルブランドとの共創は、日本の地域商業においても重要なテーマだといえます。ホールフーズのように“生産者の顔が見える小売”を体系的に作ることが、持続的な差別化につながるのではないでしょうか。
まとめ
Whole Foods Marketは、食を通じて「人と地球の関係」を問い直す企業です。厳格な基準、顧客体験、デジタル活用を組み合わせ、サステナブルな成長を続けています。Amazon傘下となった今も、“理念を実装する小売”という原点を失っていません。
日本の小売業がこの事例から学べるのは、単なるオーガニック戦略ではなく、「理念と実務を一致させる力」です。ホールフーズの挑戦を当社でも引き続き注視していこうと思います。