ウォルマートの店舗戦略大転換 全米標準化を目指す「Store of the Future」とは

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ウォルマート(Walmart)が推進する「Store of the Future」は、単なる最新店舗の呼称ではなく、店舗体験・オムニチャネル・デジタルを“全米標準”として実装していく次世代店舗モデルです。

今回は、コンセプトの起点から、具体的な店づくりの要素、代表事例、今後の展開計画までを整理します。

店舗のデジタル化を加速させるウォルマート

ウォルマートの「Store of the Future」の走りは、2019年にニューヨーク州ロングアイランドのレヴィットタウン(Levittown)で開設された、AI実験店舗のIRL(Intelligent Retail Lab)です。天井に張り巡らされたカメラやセンサーなどを通じて、売場の在庫状況や欠品、商品状態を把握し、オペレーションの高度化に取り組む試みとして注目されました。

その後もウォルマートは、デジタル投資と店舗運営の融合を進めてきましたが、近年この定義は、IRLのテストを踏まえて、さらにオムニチャネル対応・デジタルサイネージ・ESL・高効率オペレーションをパッケージングした次世代店舗モデルに進化しています。

これまでWalmartは急速に伸びてきたオムニチャネル対応に集中し、新店舗出店を控えてきましたが、2024年1月に、今後5年間で150店舗以上の新店・コンバージョンを行い、同時に既存店の改装を進める長期計画を発表しています。

ウォルマート「未来の店舗」戦略

現在のウォルマートの「Store of the Future」とは、単なる最新店舗というよりも、全米標準化を目指す新しい店舗モデルとして捉えられます。既存店の改装を含め、同コンセプトを面で展開していくことで、店舗体験と運用効率を同時に引き上げる狙いが見えます。2025年に入り、このStore of the Futureへの改装は全米で650店舗規模にまで達すると発表されています。

主なコンセプトとして、オンラインピックアップ・デリバリー導線強化地場商品・地元サプライヤー拡大コミュニティイベントスペースの導入などがありますが、ここからは具体的に特徴をご説明していきたいと思います。

店舗デザイン・導線

  • 外装・内装の一新(新塗装、モダンな什器等)
  • LED照明による明るい売り場と省エネ設計
  • 空港のサイン・デザインを参考にした、大きく分かりやすいカテゴリーサインの導入
  • 通路を広げ、カート同士がすれ違いやすくするなど、回遊性を高める設計

店舗デザインは「新しさ」だけでなく、探しやすさ・動きやすさといった体験品質の平準化に直結します。全米標準化という文脈で見ると、デザインは“見た目の刷新”以上の意味を持ちます。

デジタル・オムニチャネル

  • 店内各所にQRコード付きサイネージとデジタルスクリーンを配置し、欲しいものがすぐに見つかる仕組み
  • デジタル棚札(ESL)を導入し、価格更新やプロモーションをリアルタイム化する
  • セルフレジ、スマホ決済(アプリ決済)、非接触決済、Scan & Go などの導入・拡充
  • オンライン注文のピックアップ/デリバリーを前提とした導線・運用の強化

特にオムニチャネル面では、店内体験の改善だけでなく、バックヤードや受け渡し動線を含めた「店舗の役割再定義」が進んでいる点が重要です。

売り場構成・サービス

  • グロサリーを強化し、カテゴリー別ソリューション(ミールソリューション、ヘルス&ウェルネス等)型売り場の導入
  • ベーカリー、デリ、青果等の生鮮部門を刷新し、Grab & Goの即食商品を強化
  • 調剤薬局にプライバシールームを設置するなど、ヘルス&ウェルネス機能の強化
  • 店舗サービスの拡充(利便性と滞在価値の両立)

売り場は「品揃え」だけで差がつきにくい局面に入っており、ミールソリューションやヘルス&ウェルネスのように、課題解決型の売場として組み直す流れが見えます。

Store of the Futureの核となる店舗

ここからは、プロトタイプ(中核)として位置づけられている店舗を、判明している範囲でご紹介します。視察やベンチマークの観点では、同コンセプトが「どの要素から実装されているか」を見やすい店舗群です。

Walmart Supercenter Cypress

住所:8927 Fry Road, Cypress, TX 77433
公式サイト: https://www.walmart.com/store/6930-cypress-tx

2025年4月30日、テキサス州サイプレス(Cypress)にオープンした新店舗で、Walmartが4年ぶりの新規建設スーパ―センターかつ米国初の新築Store of the Futureと位置づけた旗艦店舗となります。

ガソリンスタンド(8ポンプ)、オートケアセンター、ドライブスルー薬局とヘルスサービスルーム、ビジョンセンター、マザーズルーム、そのほかファッション/ベビー/ホーム/ペットなど非食品部門の拡張、さらにベーカリー(地元ヒスパニック向けパンやトルティーヤ)、寿司ステーション、飲食テナント(例:Dunkin’)などを併設しています。

Walmart Supercenter Melissa

住所: 1950 Mckinney St, Melissa, TX 75454
公式サイト: https://www.walmart.com/store/1484-melissa-tx

2025年11月5日にオープンした新店舗で、Store of the Futureのコンセプトを反映した店舗とされています。18,700㎡、建設費(建築費)1,490万ドルの大型店舗で、フルラインのグロサリー、オンラインピックアップ・デリバリー対応など、オムニチャネルの中核拠点としての機能も意識されています。

Walmart Supercenter Eagle Mountain

住所: 9399 N Spring Run Pkwy, Eagle Mountain, UT 84005
公式サイト:https://www.walmart.com/store/1725-eagle-mountain-ut/shopping-services


2025年8月27日にオープンした店舗で、市のニュースリリースでは「次世代デザイン要素を備えた16,300㎡の新スーパーセンター」として紹介されました。グロサリーとデジタルサービスを統合したプロトタイプ店舗として、オムニチャネルの中核拠点としての役割がより明確になっています。

今後の展開計画

このほか、2026年1月中にオープン予定の店舗として、カリフォルニア州Eastvaleの店舗があります。

Walmart Supercenter Eastvale
オープン予定住所:14100 Limonite Ave, Eastvale, CA 92880

約15,800㎡のスーパーセンターで、Store of the futureのコンセプトを踏襲した新規店舗に位置付けられており、16ポンプのガソリンスタンド、オンラインピックアップ・デリバリー、フルサービスの生鮮・ベーカリー・デリ・薬局・ビジョンセンターなどが用意される予定です。

他にも、2026年以降にテキサス州Celina、Friscoなどでも店舗オープンの予定とされています。新店と改装の両輪で「Store of the Future」仕様を広げていくことで、ウォルマートとしての標準モデルを全国へ浸透させていく流れが続く見通しです。

おわりに

ウォルマートの「Store of the Future」は、“最新の店舗”というよりも、全米標準化を目指す新しい店舗モデルとして捉えるのが適切です。

店舗デザインや導線の刷新、デジタル・オムニチャネルの統合、売場サービスの再設計がセットで進んでおり、今後は新店だけでなく既存店改装も含めて面で広がっていく点が重要になります。

「Store of the Future」以外にも、現在テキサス州ダラス地区で試験的にドローン配送を行っており、2025年12月3日、ジョージア州アトランタ都市圏(Metro Atlanta)にて、本格的なドローン配送サービスを開始した点にも注目が集まります。

引き続き、流通視察ドットコムでは、ウォルマートの最新情報を取り上げていこうと思います。

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