急速に普及が進み、私たちの身近な存在になりつつあるセルフレジ。
利用者にとっては「待ち時間の短縮」、店にとっては「人手不足削減、コスト削減」など様々な問題を解決するはずが、今、不安要素が急速に拡大しているようです。
つい先日、メディアでも「無人での支払い」「キャッシュレス決済限定(現金不可)」といった流れに対し、消費者の抵抗が大きくなっているということが取り上げられていました。
この問題、実は欧米では、2023年後半から徐々にささやかれ、日本よりも顕在化し、個々の企業で店舗の動きが変わってきています。
欧米で拡大する「セルフレジ撤去」とその理由
米国では、人手不足を背景に2020年代初頭、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)といった大手チェーンから、ディスカウントチェーンのダラーゼネラル(Dollar General Corporation)やアルディ(Aldi)まで、数千店舗規模でセルフレジの導入が進みました。 撤去の動きには、利用者の反応など抵抗の声が理由になっている部分も少なからずありますが、最大の理由は万引きの急増にあると言われています。あくまでも全米で企業が報告した万引き事件の発生件数にはなりますが、2023年にはコロナ前の2019年比で*93%増という驚く結果でした。実態として、組織的な犯罪グループによるものだけでなく、一般消費者が不正を働くケースが多いことが深刻な問題となっています。
*出典元 全米小売業協会(NRF-National Retail Federation)
米国では2024年からダラーゼネラル大幅削減、ターゲットやウォルマートでも徐々に撤去が始まりました。欧米小売は「セルフレジ拡大から縮小」へと舵を切りだしたのがわかります。
(関連記事)ダラーゼネラルがセルフレジを大幅削減
セルフレジ対策とやっぱり“対面レジ”の動き
セルフレジ対策
セルフレジ導入のデメリットが顕在化する中、企業はさまざまな方法、デジタルの技術を駆使するなど、その取り組み自体も多様化しています。
イギリスの大手スーパーマーケットチェーンのセインズベリー(Sainsbury’s)は、Facewatch社の提供する最新の顔認証技術を試験導入。犯罪を未然に防ぐためのシステムで、Facewatch社の顔認証は、過去に暴力的、攻撃的、窃盗歴のある常習犯の顔を識別・警告する仕様になっています。ウォルマート(Walmart)は、全米の1,000店舗以上で、セルフレジのスキャン漏れをAIカメラで検知し、従業員に即時通報する仕組みを運用中です。クローガー(Kroger)も、AI技術を導入しセルフレジのスキャン漏れ、不正パターン検出を進めています。また、欧州を中心に、アルディ(Aldi)、リドル(LIDL)の両ディスカウンターは、セルフレジを拡大しつつ、むやみに増やさず、自社アプリを拡大してセルフレジにつなげています。
(関連記事)セインズベリー(Sainsbury’s)が万引き対策・防犯のため顔認証をテスト導入
“対面レジ“の動き
2023年イギリスの高級スーパー「Booths」は28店舗中26店舗でセルフレジを撤去し有人レジに切り替わり話題になりました。その理由は「セルフレジに信頼性が低い。人間的な温かみがない」との顧客の声が多かったためとされています。つまり「顧客ロイヤルティ」を重視した結果、顧客は効率以上に、接遇(対話)を求めているという判断をしたということです。
米国では、トレーダー・ジョーズ(TRADER JOE’S)が「セルフレジを入れない」と宣言しています。レジを『ファイナルフィナーレ』と位置づけています。同社にとっては顧客とコミュニケーションを取り、買物の最後を締めくくることこそが戦略なのです。
日本における「高齢者のセルフレジを前にした困惑」の解決の、ヒントとなるかもしれません。
アメリカで店舗視察するポイント
ここ数年、日本より進んでいる小売・物流のデジタル化、ロボット化を視察し、さらなる利便性の向上と効率化につなげることに重きが置かれるケースが多かったと思いますが、今回の問題に関しては、デジタル化が進んだのにも関わらず「セルフレジ撤去」の動きがある現状、ある意味で日本の先を「逆戻り」で進む米国事情を見るのもポイントかと感じます。
セルフレジ化による万引き・不正と問題、利便性に抵抗する声に対し、企業がどう対応しているのか。最先端のデジタルと効率化を学ぶだけでなく、「人とデジタル」の調和を模索し視察することもポイントになると思います。
このセルフレジ撤去の動きが、今後さらに拡大するのか。顧客の利便性と安心、犯罪を防ぐ安全性、そして省人化と効率化を組み合わせた運用が、どんな形で進んでいくのか。セルフレジの歴史はまだまだこれからです。流通視察ドットコムでは、今後の動向を追いかけていきます。