
コンビニエンスストア(Convenience store)。日本ではコンビニと略称・通称されます。
アメリカのコンビニ(Cストア(C-Store)と呼ばれる場合もあります)は、かつての“ちょっと立ち寄る店”から大きく姿を変えつつあります。ガソリン併設型を中心に全国15万店舗以上を展開し、売上の多くを占める一大チャネルへ変化しています。近年はフードサービスやデジタル技術を積極的に取り入れ、従来型のスーパーマーケットやファストフードと競合する存在に進化しています。
今回は、最新の市場動向と主要ブランドの特徴を解説し、流通視察の観点からの注目ポイントを整理してお伝えします。
米国コンビニ市場の現状
2024年末の時点で、アメリカには約152,000店舗のコンビニが稼働しています。そのうち8割はガソリンスタンド併設型で、燃料の販売と日用品の販売を組み合わせたモデルが主流です。総売上はやや減少傾向にありますが、店内売上(フード・飲料・日用品)は過去最高を更新しています。特にフードサービスの比率が拡大し、利益の源泉としての存在感を高めています。
代表的なコンビニブランド
以下にアメリカ合衆国内の代表的なブランドをご紹介します。
7-Eleven(セブン-イレブン)
7-Elevenはアメリカ国内に約13,000店舗を展開する、同国最大規模のコンビニブランドです。起源は1927年、テキサス州ダラスでサウスランド・アイス・カンパニーの従業員ジョン・ジェファーソン・グリーンが氷と日用品を販売したことにさかのぼります。
アメリカで生まれた7-Elevenですが、1980年代後半に経営危機に陥りました。その後、1991年に日本のイトーヨーカ堂が株式の70%を取得して経営権を掌握し、事実上、日本主導の運営へと転換します。さらに2005年に持株会社「セブン&アイ・ホールディングス」が設立され、米国法人の7-Eleven, Inc. はセブン-イレブン・ジャパンの完全子会社となっています。
業態面では、アメリカの店舗の多くがガソリンスタンド併設型で、ドライブイン型の利便性を重視しています。近年は飲料やスナック中心の従来型から進化し、「Laredo Taco Company」や「Raise the Roost」といった自社ブランドを活用して店内調理型のフードサービスを拡大し、温かい食事を提供するミニレストラン型の展開も進んでいます。
さらにグローバル戦略としては、2020年代に入って大規模買収を繰り返し、北米でのシェアを拡大しました。2021年にはガソリンスタンド併設型チェーン「Speedway」を210億ドル規模で買収し、店舗数と収益基盤を大幅に強化しています。また、親会社セブン&アイは米国でのIPO(株式上場)を検討する動きも見せており、世界市場における成長戦略を一層加速させています。
Circle K(サークルK)
1951年にテキサス州のカークランドで小さなガソリンスタンド併設型店舗としてスタートし、現在では北米を中心にに約7,000店を展開しています。1990年代にカナダに本社を置くアリマンタシォン・クシュタールに買収され、同社の完全子会社となっています。
効率重視のオペレーションとスケールメリットが最大の特徴であり、ガソリン販売を収益基盤に据えつつ、日用品や飲料を低コストで提供しています。ブランド統一を進め、世界各国の買収店舗を「Circle K」にリブランディングしています。
2024年8月、親会社のアリマンタシォン・クシュタールは日本のセブン&アイ・ホールディングスに対し、約390億ドル(約5兆円)の買収提案を行いました。その後、提案額を約470億ドルに引き上げ、両社は秘密保持契約を締結して交渉を進めましたが、条件面で折り合わず交渉は難航。最終的に2025年7月、クシュタールは提案を正式に撤回し、セブン&アイは独自の成長戦略に注力する方針を示しました。この一連の動きは、日本企業に対する外国企業からの大規模な買収提案として注目され、もし成立していれば世界最大級のコンビニチェーンの誕生につながる可能性がありました。
なお、過去日本で展開されていたサークルKは、1979年にユニー株式会社がアメリカのザ・サークルK・コーポレーションとライセンス契約を結び展開を行っていました。その後、1993年に米国本社から商標権を買収し、ブランドの独自運営を強化しましたが、2018年に親会社ユニーの経営統合に伴い、最終的にはサークルKはファミリーマートに吸収されブランドは消滅しました。
Wawa(ワワ)
東海岸(ペンシルベニア州など)を中心に約1,000店を展開。最大の強みは注文式フードサービスです。店内の端末でサンドイッチやホットミールを注文でき、作り立てが提供されます。結果として、Wawaは「ガソリンスタンド付きファストフード店」として機能し、ファーストフードとコンビニの境界をなくした業態といえます。ロイヤリティアプリを通じた顧客管理も進んでおり、リピーター率が高い点も注目です。
Sheetz(シーツ)
ペンシルベニア州発祥で、約700店舗を展開しています。先述のWawaとよく比較されますが、こちらのブランドは、若者や深夜利用客を狙った戦略が特徴となっています。タッチパネル注文による24時間提供のホットフードは学生やトラックドライバーに支持され、「いつでも温かい食」の提供を体現しています。 日本のコンビニは小商圏の生活インフラですが、Sheetzは「移動・ドライブ文化」に合わせた24時間型の“食の拠点”としての役割が強いといえます。
Casey’s General Stores(ケーシーズ)
米国中西部に約2,600店舗を展開し、「全米5位のピザチェーン」とも称されるほど食品販売が強みとなっています。農村地域を中心に出店しており、大都市型コンビニとは異なり「地域密着・日常の食品供給基地」として機能しています。ピザや焼き菓子といったベーカリー商品は、スーパーマーケットの代替機能を果たしています。
Buc-ee’s(バッキーズ)
テキサス州発祥の巨大型コンビニで、敷地は数千㎡規模と非常に大きくなっています。ガソリン給油機が数十台並ぶ“ガソリンスタンドのテーマパーク”とも呼ばれ、旅行者が休憩目的で立ち寄る観光地化した店舗です。店内では地元名物や土産品、バーベキュー料理まで揃っており、「小売+観光+飲食」を掛け合わせたユニークな存在。日本では例が少ない「ハイウェイ拠点型の巨大コンビニ」としてカテゴライズ出来ます。
米国コンビニ市場の最新事情・トレンド
アメリカのコンビニは、食品サービスやEV充電、デジタル化などを取り込み、日本とは異なる進化を遂げています。ここからは主要ブランドや最新トレンドを、日本市場との関わりも交えて紹介します。
食品サービスが主要収益源へ
アメリカでは、コミュニティ向けの軽食提供から、“ファストフードを凌ぐ食の目的地”へと進化しています。2024年には調理済み食品がタバコを上回るカテゴリーとなり、2025年にはホットミール購入率が29%から35%へ上昇しています。全米の85%の消費者が「注文型食品」を利用済みと回答し、コンビニがファストフードチェーンと同等の存在に。72%がCストアをQSRの”有力な代替”と認識しています。
AI・デジタル化の加速
AIの導入が店内運営の効率化と顧客体験向上に貢献しています。店内カメラで在庫や客の動きを分析し、フードロス削減や最適配置を実現する事例もあるようです。また、POSの高度化やAIによる需要予測、セルフレジ・モバイル決済の普及も進行中です。
EV充電ステーション併設の拡大
電動車(米国ではテスラなど)普及に伴い、EV充電ステーションを併設する店舗が増加しています。6割以上のコンビニが燃料販売を行う一方、ガソリンよりEVに対応することで新たな集客ポイントと収益源を確保しています。
ロイヤリティプログラムと個別訴求
ロイヤリティプログラムの使用率は大幅に上昇しており、消費者の72%がコンビニの会員プログラムに参加しています。個々の購買傾向に応じたパーソナライズ型特典がROIを強化しています。
店舗清潔感と内装の重要性
店内の清潔さが食品の鮮度感に直結するとの認識が高まっており、70%の消費者が店舗清掃状況を鮮度判断基準に含めています。内装リニューアルや品質演出の投資も増加しています。
健康志向商品の強化
プロテインスナック、低糖・オーガニック飲料、フレッシュフルーツなど、健康志向の商品が棚を占めるようになりました。若年層や健康意識の高い層への訴求が狙いです。
まとめ
アメリカのコンビニは、食品サービスの強化やデジタル技術の活用、EV充電ステーションの併設など、日本とは異なる進化を遂げています。これらの取り組みは、単に販売チャネルを広げるだけでなく、顧客との接点を拡張し、滞在時間や購買単価を高める狙いがあります。
流通視察の観点では、各社の戦略の違いを比較しながら、業態の多様化や収益モデルの変化を読み解くことが重要です。日本の小売に応用できる示唆も多く、食の提供方法や店舗設計、デジタル施策などは特に参考になります。
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