危機下における購買行動の変化と小売企業の新しい動き

前回のメールマガジン「世界的危機下で信頼される小売企業」に続いて、全く衰えを見せない新型コロナウイルスがアメリカ小売業に与えている影響についてご報告したいと思います。

まず新型コロナウイルス(COVID-19)の感染状況ですが、このわずか2週間という短期間で以下のように爆発的な拡大を見せています。

◎新型コロナウイルス感染者(WHOデータ)
データ基準日 3月31日 4月15日 増加率
全世界の感染者数 78万人 207.6万人 2.67倍
全世界の死亡者数 3.7万人 13.4万人 3.62倍
アメリカの感染者数 16.1万人 64.2万人 4.00倍
アメリカの死亡者数 3,000人 28,400人 9.47倍

アメリカでは感染者数が4倍、死亡者数に至っては9.47倍と極めて深刻な状況となっており、収束の目途も立っていません。

このような状況の中で、ニューヨークを拠点として消費者の購買行動などの調査・分析を行っている世界的調査会社のエヌ・シー・ソリューションズ(NCSolutions)社が、新型コロナウイルスがアメリカの消費者にもたらした購買行動の変化についての調査結果を発表しているのでご紹介します。

感染拡大前から収束後までを5つのステージと期間に分けてまとめているのが以下の表です。

◎購買行動の変遷について(NCSolutions社データ)
ステージ 拡大前 備え期間 買占め期間 引きこもり期間 新たな購買行動
期間 2月23日以前 2月24日〜3月10日 3月11日〜21日 3月22日〜現在 収束後
行動 新型コロナウイルス発生前と変わらない通常の購買行動が行われていた。 各メディアにより新型コロナウイルスのニュースが取り上げられ始め、この期間の家計支出平均値が約2%上昇。 消毒液、除菌関連商品とトイレットペーパーの品薄状態が始まった。 3月11日を境に全米で日用品や食料品の買占め行動が急増し、店舗の棚から商品が消えた。 この期間の家計支出平均値は拡大前に比べて約35%と急上昇した。 多くの店舗による社会的距離の保持(social distancing)や入店者数制限(mandates limited visits)の徹底による外出機会の減少。 買占め期間より家計支出平均は9%減少したものの、拡大前に比べて23%の上昇となった。 新型コロナウイルス収束後の新たな購買行動の’常識’が生まれる可能性があると示唆している。

このNCSolutions社のレポートによると、現在は各地のスーパーやドラッグストアでのパニック買い(Panic Buying)の時期を過ぎて、‘家庭へのひきこもりの時期’に入っているということですが、いまだ感染拡大前に比べると家計支出平均は大きく上回っています。

このデータを裏付けるように、全米小売り業協会のレポートでは、アメリカのグロサリーと飲料を扱う小売部門の3月の売り上げは前年比で約25%の上昇となったということです。

日用品や食料品を扱う主な小売企業も3月の売り上げの大幅アップを以下の通り報告しております。

・ウォルマート(Walmart)は前年同期比の売り上げが約20%アップ 

・ターゲット(Target)は既存店前年同期比売り上げが約20%アップ

・コストコ(Costco)は前年同期比で10.7%アップ(オンラインについては48.3%アップ)

・アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize)は前年同期比で約34%のアップ

・クローガー(Kroger)は前年同期比で約30%のアップ

一方で、全米小売業協会がまとめた非日用品、非食品等を扱う小売部門の前月比売り上げは以下のように大きな打撃を受けています。

・衣料品 50.5%ダウン

・家具類 26.8%ダウン

・スポーツ用品 23.3%ダウン

・家電製品 15.1%ダウン

このように、小売部門でも販売品目によって大きな違いが出てきており、アメリカ合衆国国勢調査局(US Census bureau)の最新の統計によると、3月期のアメリカの小売り全体の売り上げは前月比で8.7%下落したということで、これまで最悪だった2008年11月期のリーマンショック時の4.3%を大きく上回りました。

新型コロナウイルス収束の目途の立たない状況のなか、現在の‘引きこもり期間’がいつまで続くのか全く見通しが立ちませんが、世界の小売業界では様々な動きが出てきています。

ドイツでは、同国を代表するディスカウント小売りチェーンのアルディ(Aldi)が、ハンバーガーチェーンのマクドナルド(McDonald’s)の従業員を一時的にアルディ店舗で雇用するという取り組みを開始し雇用維持に貢献しています。

アメリカでは新型コロナウイルスにより外食産業の殆どが閉店をしており、アメリカの小売り関連市場調査会社大手のエヌピーディ・グループ(NPD Group)によると、3月23日〜29日の1週間のレストラン業界の売り上げは前年同時期比で42%落ち込んだということです。

このような環境下において、テキサス州をメインにスーパーマーケットチェーンを展開しているエイチ・イー・バット(H.E.B)は地元の複数のレストランのメニューを店内で販売し、売り上げ維持に協力しています。

サンドイッチ店舗を展開している大手ファストフードのサブウェイ(Subway)は、南カリフォルニアの100店舗をサンドイッチ作りに必要な食材を販売する食料品店に業態変更して市場の食料品不足に対応しています。

また、約2,200店舗のベーカリー・カフェチェーンを展開しているパネラ・ブレッド(Panera Bread)も、同社が日常仕入れているトマトやアボカド等の生鮮食品や、ミルク、ヨーグルト、バン等をオンラインで注文して店舗にてピックアップあるいはデリバリーする食料品店に業態変更をしてこの困難な時期を乗り越えようとしています。

引き続き世界の小売業の動向に注目して行きたいと思います。

(2020.4.17配信/記事作成:イオンコンパス(株)営業戦略部)

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