ドイツ発のハードディスカウンターであるリドル(Lidl)が、昨年6月15日に満を持してアメリカ進出を果たしてから約1年が経過しました。進出後のリドルと競合店の動向、消費者からの評価などをご紹介します。
≪アメリカ進出後のリドルの動向≫
リドルのアメリカ進出当初の予定では、2018年末までに100店舗のオープンを計画していましたが、現時点(6月21日)の店舗数は53店舗にとどまっています。昨年11月のメールマガジン「米国での評判いかに?進出から五ヶ月、独リドルのその後」にて、アメリカ進出から5か月後の状況についてご紹介した時点での出店数は45店舗でしたので、この約7か月間の間の出店はわずか8店舗のみとなっています。
以下が現在のリドルの出店エリアと店舗数です。
●リドル出店エリアと店舗数 2018年6月21日現在 (左の数値は2017年11月17日の店舗数)
リドルはこの7か月の間に、ニュージャージー州における2店舗目の出店を中止し、新たに進出を決めて用地準備を進めていたアラバマ州への出店も急きょ取りやめています。ノースカロライナのケーリー(Cary)、ウィルミントン(Wilmington)およびシャーロッテ(Charlotte)でも予定していた新店舗の計画を中止し、出店準備のために契約を結んでいた地元のディベロッパーから訴訟を起こされる事態となっています。このように、アメリカ出店後のリドルについてはネガティブな情報が多くみられます。
≪リドルの米国進出に伴う、市場・競合店への影響≫
フロリダを拠点とする世界有数の小売関連ビッグデータ企業であるカタリナ(Catalina)社の最新のレポートによると、この1年間でリドルが出店したエリアでは、出店前に恐れていたほどの市場への影響は無かったとのことです。
同社は、昨年ノースカロライナ、サウスカロライナおよびバージニアに出店したリドル30店舗と、そこから半径3マイル以内に位置している競合店の83店舗について、リドル進出から4ヵ月間(16週間)にわたり、売り上げに対する影響を調査していますのでご紹介します。
1ヶ月目 | 2ヶ月目 | 3ヶ月目 | 4ヶ月目 |
-6.80% | -6.00% | -2.70% | -1.90% |
※カタリナ社データ
リドル出店直後では、競合店にマイナス6.8%、マイナス6.0%と大きな影響が出ていますが、3ヶ月目以降では競合店への影響は小さくなっていることがわかります。この背景には、同じドイツ出身で既にアメリカで強力な存在感を示しているアルディ(Aldi)や世界最大の小売業であるウォルマート(Walmart)をはじめ、ハリス・ティーター(Harris Teeter)やフードライオン(Food Lion)といった地元で長年営業してきた老舗チェーンによる徹底したプライスマッチング施策があったということです。
リドルは、最も評価されている農産物、ビール、ワイン、シーフード、精肉、デリ、冷凍食品やベーカリー等の値段の安さと品質の良さにより、出店直後は客足を伸ばしたといえます。しかしながら周囲の競合店がこれらの商品に焦点を絞ったプライスマッチングを行ったことで、3ヶ月目以降のリドルの影響力に変化が出たようです。
農産物やビール、ワインは、一般的な店舗の売上全体の16%を占める程度であり、シーフード、精肉、デリ、冷凍食品などは全体の33%程度と言われています。 したがって、競合店がこれらの商品の値段を大幅に下げたとしても、それほど大きな負担とはならなかったということです。
また、アコスタ(Acosta)社*の最新のレポートでは、アメリカでのプライベートブランドの需要が伸びているのは事実ながら、多くのアメリカ人はいまだにナショナルブランドへの信頼感を強く持っており、商品の90%がプライベートブランドのリドルの出店は大きな影響に至らなかったとしています。
2017年の小売り全体の売上は、ナショナルブランドが5,580億ドルであったのに対し、プライベートブランドは1,240億ドルであったということです。リドルの出店により、競合店舗におけるプライベートブランドの売り上げの約58%に影響が出たということですが、競合店舗にとってプライベートブランドの売り上げ規模は全体の28%程度であり、それほど大きな打撃では無かったということです。
また、アコスタ社のレポートでは、ナショナルブランドとプライベートブランドにバランスよく取り組んでいる企業が最も効率的に成績を伸ばしているということです。
*アコスタ社:メーカーやホールセラーおよび小売業の間に位置し、セールスとマーケティングの代行を受託するアウトソーシング企業(ブローカー)で全米トップの規模を持つ企業
≪リドルに対する消費者の評価≫
リドルがアメリカに進出した1年目は、競合店舗による包囲網などの逆風により、当初予定していたような成長は果たせていないようですが、違った見方を示している世界的経営コンサルティング企業のオリバーワイマン(Oliver Wyman)社の最新の調査をご紹介します。
同社が、約1年間をかけてリドルが出店している6州の約3,600人の消費者に聞き取り調査した結果、そのうちの約600人がリドルで買い物をしたことがあると回答しました。更に、その600名のうちの48%が毎月2回以上はリドルを利用していることが分かりました。
以下がリドルを月に2回以上利用している人の年代別のグラフですが、年齢層が若くなればなるほど、購入頻度が高いことが分かります。
※オリバーワイマン社データ
特に次世代の中心購買層にあたる44歳以下の年代層が頻繁にリドルを利用していることが分かりますが、同社の調査では、次世代購買層の53%が、一回の利用で50ドル以上を購入しており、45歳以上の現在の中心購買層の34%を大きく上回っているということです。
次に、リドルと競合店舗の優劣を5つの項目において比較した意識調査の結果をご紹介します。競合の代表的店舗として、ウォルマート(Walmart)、クローガー(Kroger)、ハリス・ティーター(Harris Teeter)、アルディ(Aldi)、フードライオン(Food Lion)の5社との比較調査をしています。
(○リドルの方が優れている、 △ 対等、 × リドルが劣っている)
※オリバーワイマン社データ
前回のメールマガジンでもご報告したように、欧州において百戦錬磨のリドルは、臨機応変でスピーディな課題への対応で知られています。
アメリカ進出1年目の評価は大きく分かれているようですが、今後もリドルの動向に注目をして行きたいと思います。
(2018.07.02配信)
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