近年のショッピングのオンライン化により、多くの実店舗が倒産や店舗の削減などに追い込まれていますが、6月のメールマガジン『再活性化を目指す!米国モールの現状と取組』でもご紹介した通り、ショッピングモールも客離れの危機にさらされています。
このような厳しい環境の中で、順調に売り上げを伸ばしている実店舗モデルとして、「空港」が注目されています。
世界的調査会社であるグローバルデータ(GlobalData)社のレポートによると、2016年の全世界の空港でのショッピングによる売上は、約380億ドルにも上るとのことです。今後も年平均5%の成長が見込まれており、5年後の2021年には490億ドルまで伸びると予測されています。
2016年、世界で最も空港でのショッピング額が大きかったのはアジア・パシフィック地区で、約148億ドルでした。特に中国人旅行者による、免税店での高額商品の購入が大きく貢献したということです。続いてヨーロッパが約107億ドルという結果でした。イギリスのEU離脱決定によるポンド安によって、イギリスへの渡航者が伸びたということが最大の要因とのことです。
イギリスに本部を持つ空港サービスリサーチ企業であるスカイトラックス(Skytrax)社では、毎年世界中の空港を対象に、様々な部門でのランキングを発表しており、空港ショッピング部門のランキング(The World’s Best Airports for Shopping)も発表していますのでご紹介します。
この調査は、スカイトラックス社が2016年7月から2017年2月まで、世界各国の550の空港利用者約1,382万人に対して行ったアンケート結果によるもので、空港内店舗の充実度や利便性等をまとめたものです。
順位 | 空港名 | 国/地域 | コード |
1 | ロンドン・ヒースロー国際空港(London Heathrow International Airport) | 英国 | LHR |
2 | 仁川国際空港 (Seoul Inchon International Airport) | 韓国 | ICN |
3 | 香港国際空港(Hong Kong International Airport) | 香港 | HKG |
4 | シンガポール・チャンギ国際空港(Singapore Chagi Airport) | シンガポール | SIN |
5 | ドーハ・ハマド国際空港(Hamad International Airport) | カタール | DOH |
6 | ドバイ国際空港(Dubai International Airport) | UAE | DXB |
7 | アムステルダム・スキポール国際空港(Schipol Amsterdam Airport) | オランダ | AMS |
8 | パリ=シャルル・ド・ゴール空港(Paris Charles de Gaulle Airport) | フランス | CDG |
9 | フランクフルト空港(Frankfurt Airport) | ドイツ | FRA |
10 | チューリッヒ空港(Zurich Airport) | スイス | ZRH |
※Skytrax社2017年データによる
アンケート結果から、ショッピングの観点からの空港ランキングは、ヨーロッパ、アジア、中東の空港が上位を独占していることがわかります。アメリカについての具体的数値の報告はありませんが、アメリカでの空港利用は国内線が圧倒的に多く、またアメリカ人の多くが空港をバス停留所や鉄道駅と同じような感覚で利用しているとのことです。そのため空港滞在時間が非常に短く、空港でゆったりと時間を過ごしてショッピングを楽しむという習慣が根付かなかったという背景があり、アメリカの空港にとってショッピングは大きなビジネスチャンスとして捉えられていなかったということです。
イギリスのビジネス情報調査会社ムーディ・インターナショナル(Moodie Internationl)社のレポートでは、全世界の空港における空港関連業務以外(例:ショップ、レストラン、駐車場等)の売り上げは、平均で空港全体売り上げの約40%を占めているということですが、アメリカの空港はわずかに全体の9%しかなく、極めて異常な数値とのことです。
ちなみに、最も空港関連業務以外の売り上げの多いのは中東地域で、約55%とのことです。 (いずれも2015年データ)
このような中、国際空港評議会(ACI – Airports Council International)によると、現在アメリカ人による海外旅行者数は約3,200万人に対して、国内旅行(移動)者数が4,100万人となっているものが、2028年には海外旅行者の数値が逆転するだろうとのことです。また、アメリカへの海外からの入国者数は年々増えており、2014年以降は8,000万人を超えています。
こうした環境の変化の中、ここ数年の間に多くのアメリカ国内の空港が、単なる移動のための施設から滞在することを楽しめる施設への転換を図り始めています。インドに本社を置く調査会社のマイクロマーケット・モニター(MicroMarket Monitor)社によると、全米の空港におけるショッピングによる売り上げは、2015年で約42億ドルだったとのことですが、2020年には99億ドルまで伸びるだろうと予測しています。
実際に、かつて全米を代表する家電販売店であったラジオシャック(RadioShack)は経営破たんしましたが、空港内で電気製品販売店を運営するインモーション・エンターテインメント(InMotion Entertainment)社は売り上げを順調に伸ばしており、現在125店舗を展開しています。また、全米各地で新聞・雑誌を販売しているマサチューセッツを拠点とするアウト・オブ・タウン・ニューズ(Out of Town News)は経営破たんの危機に晒されていますが、空港をメインにニューススタンドを展開するハドソン・ニュース(Hudson News)は売り上げを伸ばし、現在も多くの店舗を空港内にオープンする準備をしています。
前述のスカイトラックス社のランキングでは残念ながらアメリカの空港は選ばれておりませんが、アメリカの一般大衆紙であるUSAトゥデイ(USA TODAY)が読者を対象として、ショッピングをするのにベストな国内およびカナダの空港ベスト
10をアンケート調査しているので、その結果もご紹介します。
順位 | 空港名 | 国 | コード |
1 | トロント・ピアソン国際空港(Toronto Pearson International Airport) | カナダ | YYZ |
2 | サンディエゴ国際空港(San Diego International Airport) | アメリカ | SAN |
3 | デトロイト・メトロポリタン・ウェイン・カウンティ空港(Detroit Metropolitan Wayne County Airport) | アメリカ | DTW |
4 | ピッツバーグ国際空港(Pittsburg International Airport) | アメリカ | PIT |
5 | オーランド国際空港(Orlando International Airport) | アメリカ | MCO |
6 | ダラス・フォートワース国際空港(Dallas/Fort Worth International Airport) | アメリカ | DFW |
7 | ミネアポリス・セントポール国際空港(Minneapolis-Saint Paul International Airport) | アメリカ | MSP |
8 | ボルチモア・ワシントン国際空港(Baltimore-Washington International Airport) | アメリカ | BWI |
9 | ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(Hartsfield-Jackson Atlanta International Airport) | アメリカ | ATL |
10 | マイアミ国際空港(Miami International Airport) | アメリカ | MIA |
※USA TODAYデータによる
年間を通して、早朝から深夜まで、多くの旅行者が利用する空港は、集客に苦労する市中のショッピングモールとは違い、コンスタントな来店客を期待することができます。
休暇を取って旅行をする人たちは、一般の人たちよりも比較的裕福な所得層が多いというデータもあり、空港では高級志向のブランドショップが人気となっています。
また、旅行という非日常の雰囲気の中で、多くの人の財布の紐がいつもより緩くなるという心理的なメリットもあるということで、ウェストフィールド(Westfield)のような世界的なショッピングモール運営企業も空港での店舗ビジネスに乗り出しています。
空港はもはや移動のための施設としてだけではなく、新たなビジネスの可能性が眠っている場所として注目されています。出張や旅行の際には、ぜひランキング上位の空港や今後変化が予想されるアメリカの空港でのショッピングについても、注目してみてください。
(2017.09.20配信)
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