競争激化でも売上を伸ばす!ウォルマートの価格戦略

2月に発信したメールマガジン、「変化に注目!英国食品小売企業の市場シェアランキング」で、ドイツ生まれのハードディスカウントチェーンである、アルディ(Aldi)とリドル(Lidl)がイギリス小売市場に大きな影響を与えているとお伝えしましたが、全米最大の経済新聞社のウォールストリートジャーナル(Wall Street Journal)によると、アメリカでも両社の進出による影響が小売市場に起こりつつあるとのことです。

イギリスでは、アルディとリドルが小売市場に価格競争(Price War)を引き起こしており、既に多くのイギリス小売企業が大きな打撃を受けています。イギリスの世界的市場調査会社カンター・ワールドパネル(Kantar Worldpanel)によると、イギリス小売市場のマーケットシェアにおいて、直近の2年間で、アルディが1.5ポイント、リドルが1.2ポイントのシェア伸ばしているのに対し、イギリス企業はテスコ(Tesco)▲0.8ポイント、セインズベリーズ(Sainsbury’s)▲0.3ポイント、モリソンズ(Morrisons)▲0.5ポイント、アズダ(Asda)に至っては▲1.4ポイントと、軒並みシェアを落としています。

アメリカの小売市場には既にアルディが進出しており、また、今年の2月のメールマガジン「リドルがアメリカ上陸へ!」で特集した通り、今年の夏にはリドルが米国東海岸への出店を予定しています。これにより、アメリカでもドイツの2大ハード・ディスカウントチェーンが顔を揃えることになり、イギリス同様の価格競争が起こると言われています。

アメリカ小売市場では、アマゾン(Amazon)がオンラインだけでなく実店舗への展開を視野に入れてますます勢力を拡大しています。それに伴い、アメリカ小売企業はオムニチャネル化という大きな転換期を迎えていますが、さらに、価格競争という大きな課題への対応にも迫られています。

このような状況の中で、いち早く価格競争に備えていたのが、世界最大の小売企業であるウォルマート(Walmart)でした。もともとEDLP(Every Day Low Price)という一貫した低価格戦略で他社をリードしてきた同社ですが、アルディやアマゾンの台頭により、価格面での優位性を失いつつありました。 そこでウォルマートは、同社のオンラインサイト、「ウォルマートドットコム(Walmart.com)」で、それまでのEDLP戦略だけでなく、アマゾンが行っているダイナミック・プライシングという価格戦略を新しく導入しました。 これは市場の状況に合わせて価格を変動させるというもので、ウォルマートの代表的な取り組みとして、2014年にスタートしたオンラインアプリのセービング・キャッチャー(Savings Catcher)が挙げられます。このアプリは、ウォルマートで商品を購入した後であっても、同地区内の競合他社店の販売価格がウォルマートの販売価格よりも少しでも安い場合、差額を返金するという画期的なものです。 

またウォルマートは自社の総売り上げの56%を占める食料品について、プライス・コンパリゾン・テスト(Price Comparison Test)という価格調査を2015年から行っています。この調査は、アイオワ、イリノイ、フロリダといった中西部から南東部の11州の約1,200店舗で実施され、具体的には、アルディやクローガー(Kroger)、ターゲット(Target)といった競合他社の販売価格の徹底調査と価格調整が行われています。その結果、同社の食品小売価格は前年比で、フィラデルフィア地区5.8%、アトランタ地区4.9%、南カリフォルニア地区2.7%の値下げが行われたとのことです。

ウォルマートはオムニチャネル化についても同時に進めており、2016年10月にはオンライン商取引企業のジェット・ドットコム(Jet.com)を買収し、オンライン市場でのシェア拡大を図っています。 2016年第4半期におけるウォルマートのオンライン売り上げの対前年伸び率は29%であり、アマゾンの22%を大きく上回る結果となりました。

実店舗とオンライン両面からの改革を行い、競合他社に負けない価格設定を可能にしていることがわかります。

一方で、アメリカ最大のスーパーマーケットチェーンのクローガーは2016年第3四半期まで52四半期(13年間)連続既存店ベースの対前年売上を伸ばしてきましたが、2016年第4四半期は前年を割り込む結果となっています。クローガーは、アメリカで1950年以来はじめて、16か月連続(2017年3月時点)食品小売価格が下落するデフレ状態が続いていることを最大の要因として挙げていますが、ウォルマートによる徹底した価格戦略の影響も否定できないと思われます。

リドルの米国出店に伴い、ますます激化が予測されるアメリカ小売企業の価格競争に対し、各社がどのような価格戦略を取るのか、注目していきたいと思います。

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